欧州委、畜産業のケージ使用禁止を法制化すると表明

(EU)

ブリュッセル発

2021年07月02日

欧州委員会は6月30日、畜産業のケージ使用を段階的になくし、最終的に禁止する法令を2023年末までに提案すると発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。欧州委は、この法案を欧州グリーン・ディールの関連政策「農場から食卓へ(Farm to Fork)戦略」で示したアニマルウェルフェア(注1)に関する規制の見直し(2021年6月29日記事参照)の一環と位置付ける。法案では、ケージの使用に当たって、既に一部規制がある産卵鶏や繁殖豚などへの使用制限の強化に加え、ウサギや若鶏、種鶏、カモ、ガチョウなども規制の対象とする予定とした。

今回の新たな規制への動きのきっかけは、7カ国以上のEU加盟国で100万人以上の署名を集めて、欧州委に対して立法提案することを認める制度「欧州市民イニシアチブ(ECI)」を活用したキャンペーンだった。欧州委は、EU離脱前の英国を含む28カ国(注2)で約140万人の署名を集めたこのキャンペーンを「より倫理的で、持続可能な畜産システムへの移行」を求める社会の要請と評価し、その要請に応えることは「優先度が高い」とした。欧州議会も6月10日、このキャンペーンを受けて、ケージの使用を段階的になくし、可能なら2027年には禁止する法令の提案を欧州委に対して求める決議を採択外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますしていた。

生産者の負担軽減のため、あらゆる手段の活用検討

欧州最大の農業生産者団体COPA-COGECAは6月30日に発表した声明で、生産者の立場からは「ケージ使用なし」への移行には多大な投資と努力が求められると指摘した。生産現場への影響を軽減するため、欧州委は法案を科学的な根拠に基づいたものにすべく、欧州食品安全機関(EFSA)に意見を求め、移行期間の長さや生産者への支援策を決定するために影響評価や公開諮問(パブリックコンサルテーション)を2022年末までに実施するとした。生産者支援の手段としては、加盟国による次期(2023~2027年)共通農業政策(CAP)で導入される「エコ・スキーム」(2021年7月1日記事参照)、さらに、欧州グリーン・ディール投資計画の「公正な移行基金」(注3)や復興基金の「復興レジリエンス・ファシリティー(RRF)」(2021年6月18日記事参照)の活用などを挙げた。

COPA-COGECAはこうした欧州委の支援策などの提案を歓迎したが、EU域内産品に対する規制が強化される一方で、域外国からの輸入品について、欧州委が挙げた対応策(貿易相手国との協力強化や関連EU規則の一部の追加適用など)では不十分だとして、域外産の輸入品に対しても公正なルール適用を求めた。

写真 欧州社会のアニマルウェルフェアへの関心を反映して、加工品(卵を原料とする菓子)の包装に「放し飼い卵を使用」と明記しているものもある(ジェトロ撮影)

欧州社会のアニマルウェルフェアへの関心を反映して、加工品(卵を原料とする菓子)の包装に「放し飼い卵を使用」と明記しているものもある(ジェトロ撮影)

(注1)アニマルウェルフェアとは、国際獣疫事務局(OIE)によって「動物がその生活している環境にうまく対応している態様」と定義され、生産性や安全性を向上しつつも、家畜の快適性に配慮した飼養を行うこと。

(注2)署名活動は2018年9月~2019年9月に実施され、英国分については、同国のEU離脱前で有効と認定されたため、集計に加えられた。キャンペーンは、英国の動物愛護団体Compassion in World Farmingが主導した。

(注3)ジェトロ調査レポート「新型コロナ危機からの復興・成長戦略としての『欧州グリーン・ディール』の最新動向PDFファイル(2.5MB)」84~85ページ参照。

(滝澤祥子)

(EU)

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