欧州委、復興基金財源のEU名義債券発行開始、国別復興計画も審査順次完了
(EU)
ブリュッセル発
2021年06月18日
欧州委員会は6月15日、復興基金の財源となるEU名義の債券として、200億ユーロ分の10年長期債を発行したと発表した。7倍を超える大幅な応募超過となり、金利が0.1%以下となるなど、非常に優位な条件での発行になったとした。今回の発行は4月に発表した発行計画(2021年4月16日記事参照)に基づくもので、欧州委は、発行予定が最大7,500億ユーロの債券のうち、2021年末までに800億ユーロ分の長期債を含む1,000億ユーロ程度の債券を発行する見込み。これにより、年内に執行予定の加盟国への補助金と融資に必要な財源を確保できるとした。2020年7月の政治合意から約11カ月、EU名義の債券発行が始まったことで、復興に向けた取り組みが本格化しそうだ。
復興基金の予算執行、第1弾は7月後半にも開始
欧州委は6月16日、加盟国の中で初となるポルトガルの「復興レジリエンス計画」(以下、復興計画)の審査が完了したと発表した。加盟国が復興基金の約9割を占める「復興レジリエンス・ファシリティー(RRF)」(2021年2月15日記事参照)からの予算を使用するためには、復興計画の欧州委による審査と、EU理事会(閣僚理事会)の承認を経る必要がある。2021年上半期のEU理事会議長国を務めるポルトガルは4月22日、全加盟国の中で最初に復興計画(166億ユーロ)を欧州委に提出した。欧州委は、復興計画がグリーン化、デジタル化事業にそれぞれ37%と20%の予算を充てていることや、計画の長期的な効果、改革や投資の目標設定が明確で現実的かなど、承認に必要となる11の要件を満たしているかを審査する。欧州委によると、ポルトガルの復興計画は、エネルギー効率を改善する大規模な建物改装や、産業化の脱炭素化支援、地下鉄の延伸や電気・水素を燃料とするバスの導入など持続可能な都市交通の整備などのグリーン事業に38%、デジタルスキルや高度技術人材の育成、教育のデジタル化、公的機関のIT整備などのデジタル事業に22%の予算をそれぞれ割り当てる。今回、欧州委がポルトガルの復興計画の審査を完了したことで、7月に開催されるEU経済・財務相理事会での承認を経て、早ければ7月後半にも、復興計画予算の13%に相当する前払い分の支払いがなされる予定だ。
また、欧州委は6月17日にも、スペイン、ギリシャ、デンマークの復興計画の審査完了を発表した。これにより、ポルトガルは議長国として最優先課題として挙げていた加盟国の復興計画の承認プロセス(2021年1月8日記事参照)をほぼ予定どおりに進め、予算執行までの道筋をつけたことになる。ただし、オランダ、エストニア、ブルガリア、マルタは復興計画策定が遅れているとみられ、6月2日時点で欧州委へは提出されていない。
(吉沼啓介)
(EU)
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