メキシコ石油公社PEMEXのドミナント規制撤廃を裁判所が差し止め
(メキシコ)
メキシコ発
2021年06月01日
メキシコ政府が5月19日付官報で公布した炭化水素法施行令の付則13条改正による石油公社(PEMEX)へのドミナント規制(注1)廃止措置(2021年5月21日記事参照)について、フアン・パブロ・ゴメス・フィエロ経済競争・放送・通信行政担当第2裁判官は5月31日、民間事業者が提訴し庇護訴訟(アンパロ、注2)の過程で、廃止措置を一時的に差し止め、エネルギー規制委員会(CRE)が5月20日付決定(A/015/2021、5月21日付官報公示)に基づいて撤廃したPEMEXに対する49の規制を3営業日以内に元に戻すよう命じた。同裁判官は6月4日に公聴会を開いて関係者の見解を聴取した上で、付則13条の改正とCREの決定について、憲法判断がなされるまでの間の差し止め確定を決定する。
立法府は付則13条の改正理由について、「(石油製品)市場の効率的で競争のある発展を促す経済主体のより多くの参加が獲得されたため」としているが、ゴメス裁判官は、市場の競争条件が改善したことを判断する権限を持つのは専門的能力を持つCREであり、立法府ではないとし、憲法により議会に与えられた権限を逸脱していることや、ドミナント規制を十分な調査なく性急に廃止することは、憲法が保障する自由競争の原則に害を及ぼす危険性があるとし、規制廃止措置の差し止めを認めた。
現政権下のエネルギー政策の大半が差し止めに
アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール現政権が進めているエネルギー政策は、電力庁(CFE)やPEMEXなど国営企業の役割強化に重点を置いている。2020年に導入された法改正を伴わない複数のルール変更(2020年9月29日、10月9日記事参照)や、2021年に立法府の協力を得て実現した数々の法改正(2021年3月22日、5月18日記事参照)は、司法の判断によってほぼ全て適用差し止めの状況にある。現政権下ではエネルギー分野の法的信頼性が著しく悪化しており、新型コロナウイルス感染拡大前から低下傾向にあった企業家の投資意欲にさらなる悪影響を及ぼしていると指摘する声は多い。
(注1)非対照の規制とも呼ばれる。市場への影響力が大きく支配的(ドミナント)と判断される事業者に対し、他事業者より厳しい規制を課すこと。
(注2)行政府や立法府、司法府などの行為により、憲法が保障する国民や企業の基本的権利が侵害された場合、当該行為の差し止めと無効を求める裁判制度。
(中畑貴雄)
(メキシコ)
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