国家安全保障・投資法が成立、重要17分野で政府の介入権限強化
(英国)
ロンドン発
2021年05月07日
英国政府は4月29日、国家安全保障を脅かす可能性がある、外国企業や投資家による英国企業に対する合併・買収などについて、政府が調査・介入できることを強化する新法「国家安全保障・投資法〔National Security and Investment(NS&I)〕Act」の成立を発表した。
政府は2020年11月に同法案を議会に提出した(2020年11月16日記事参照)。同法は国家安全保障上の懸念が生じやすい17の主要分野(注)での特定の取引を対象としており、これらの分野に関わる取引を行う企業や投資家が対象となる英国企業の株式または議決権を25%以上取得する場合、政府への通知を義務付ける。法案提出当初は15%以上としていたが、主要国の外国直接投資制度よりも厳しい値なことなどから、見直した。また、既に株式・議決権を25%以上取得している場合でも、新たにこのシェアを50%以上、75%以上に引き上げる場合、もしくは投資家が企業の決議を阻止または可決できる議決権を取得する場合にも、政府への通知を義務付ける。
なお、17の主要分野以外でも、国家安全保障に関わる可能性がある場合は、政府へ通知することが推奨される。
対象分野の合併・買収について、企業や投資家はデジタルポータルを介して政府の専門機関の投資セキュリティー部門(Investment Security Unit)に通知する必要がある。同部門はビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)内に設置され、企業や投資家による同法に関する問い合わせや、合併・買収について政府に通知する際の単一窓口となる。
クワシ・クワルテングBEIS相は同日、「英国は、英国と同盟国の安全保障を脅かそうとする者の継続的かつ広範な敵対行為に直面している」とし、「英国への投資は歓迎するが、安全への脅威に対しては、われわれの利益を守るために行動する」とコメントした。
対内投資を促進する新組織設立
買収規制を強める一方で、対内投資を促進する動きもある。ジェリー・グリムストーン投資担当閣外相は4月27日、海外からの投資に関する政府の諮問機関として、海外投資家にとって英国のビジネス環境を改善・向上させるための投資諮問委員会(Investment Council)の設立を発表した。同委員会は、世界中のテクノロジーやエネルギー、インフラ、金融サービスなどの業界幹部メンバーで構成し、年2回の定例と必要に応じて会合を開き、2020年11月に設置した投資局(Office for Investment、2020年11月16日記事参照)と連携して、対内投資の促進に繋げるとしている。
(注)先端素材、先進ロボット工学、人工知能、民生用原子力、通信、コンピュータハードウエア、政府への重要なサプライヤー、危機管理に関する重要なサプライヤー、暗号認証、データ・インフラストラクチャー、防衛、エネルギー、生物工学、軍民併用技術、量子技術、衛星・宇宙技術、輸送の17分野。
(宮口祐貴)
(英国)
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