石油公社PEMEX、シェルから米テキサス州の製油所を100%買収

(メキシコ)

メキシコ発

2021年05月26日

オランダの石油大手ロイヤル・ダッチ・シェルとメキシコ石油公社(PEMEX)は5月24日、米国テキサス州ディアパークにあるシェルとPEMEXが共同所有する製油所のシェルの持ち分50.005%をPEMEXに売却することで合意したと発表した。これにより、PEMEXが同製油所の100%の権益を取得することになる。取得額は5億9,600万ドル。これに加え、取引成立時に施設内に残る原油と石油精製品の在庫資産について、PEMEXがその時点の市場価格(約2億5,000万~3億5,000万ドル)で譲り受けることになる。シェルは、施設内にある石油化学プラントの権益は維持する。この取引は米国当局の承認を経て、2021年第4四半期に成立する見通し。

シェルの5月24日付プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、シェルは当初、同製油所を売却する計画はなかったが、PEMEX側からの提案に基づいて交渉した結果、合意に達したという。ディアパーク製油所は約30年の操業の歴史があり、PEMEXは1993年に約50%の権益を取得した。日量34万バレルの原油精製能力があり、ガソリンを日量約10万バレル、ディーゼルを同9万バレル、ジェット燃料を2万5,000バレル生産する。メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領は5月24日付のビデオメッセージで、現在建設中のタバスコ州ドス・ボカス新製油所(2019年6月10日記事参照)と国内6カ所の製油所の近代化が完成すれば、今回買収した製油所と合わせ、メキシコは2023年にガソリン国内需要の100%を自国(企業)で生産できるようになると語っている。

国内の低い精製効率補う効率的投資

AMLO政権は現在、タバスコ州ドス・ボカスに新製油所の建設を進めているが、建設コストは最低でも89億ドル、現実的な試算では138億ドルと言われている。今回の合意は、新製油所とほぼ同等の精製能力を持つ製油所を、在庫分の支払いを加えても10分の1程度の資金で入手できることを意味し、効率的な方法だと指摘する声が強い。従来、脱炭素化の流れの中で新製油所を建設する投資計画の採算性が問題視されており(2019年5月10日記事参照)、米国などに存在する余剰資産を買収する方が効率的という声はあった。また、メキシコ国内の製油所は歴史的に補修工事などが適切に行われておらず、稼働率や生産性が非常に低い。2020年の稼働率は平均36.5%にすぎず、PEMEXは多額の投資を行って2021年第1四半期(1~3月)にようやく50.8%の水準まで引き上げている。国内の精製マージンは、1バレル当たり0.99ドルだが、買収したディアパーク製油所は2ドルに達する(「レフォルマ」紙5月25日付)。

AMLO大統領は今回の買収による新たな負債を負うことはないと語っているが、2021年度のPEMEXの投資計画やメキシコの当初歳出予算には盛り込まれていないため、どこから資金を調達するのかは明らかになっていない。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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