3度目の年金引き出し法が施行、5月3日から申請開始

(チリ)

サンティアゴ発

2021年04月30日

チリで、新たに確定拠出型年金(AFP)の積立額の一部を引き出し可能とする法律が4月28日に官報公示された。既にチリでは、新型コロナウイルス感染拡大による生活難を抱える国民を救済する目的で、同様の法律が過去に2度施行されており(2020年8月4日記事参照2020年12月17日記事参照)、これらに続いて3度目の年金引き出しが可能となった。

今回も1、2度目と同じく、野党主導の下で国会へ法案が提出されたが、過去の引き出しによって既に積立額が残っていない約300万人の加入者が恩恵を受けられないとして、政府与党は一貫して反対の姿勢を示していた。しかし、そもそも現在の与党連合の議席数は、上下両院において過半数を割り込んでおり、野党議員を中心に多くの賛成票が投じられたことで可決に至っている。これに対し政府は、年金制度自体の崩壊を招くその違憲性を憲法裁判所(Tribunal Constitucional)に訴えるとともに、対案として数点の修正事項を加えた政府案を下院に提出した。しかし、4月27日に憲法裁判所が政府の要求を退ける判決を下したため、元々の野党案が効力を持つこととなった。

今回の年金引き出し法は、1、2度目と同じく積立額の10%を引き出すことができ、上限は150UF(注)、下限は35UFとなっている。積立額の10%が35UFに満たない者は35UFを引き出すことができ、積立額が35UFに満たない者は全額を引き出すことが可能だ。また2度目の引き出しでは、引き出し額と個人所得を合わせた年間所得によっては課税の対象になり得たが、3度目の引き出しでは、引き出す金額にかかわらず課税の対象外となっている。3度目の引き出しの申請開始は2021年5月3日の午前9時からで、申請期間は官報掲載から1年間となっている。年金監督庁(SP)によれば、今回の引き出し法の対象となるのは、全国民のおよそ半分の約1,000万人にも上るとしている。

(注)1UFは約2万9,500ペソ(約4,720円、1ペソ=約0.16円)。UFは消費者物価指数の変動率に応じて調整されるインデックスでUnidad de Fomentoの略。

(岡戸美澪)

(チリ)

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