EU・英国の通商協力協定が正式発効も、課題が山積

(EU、英国)

ブリュッセル発

2021年04月30日

欧州議会は4月27日、本会議を開催し、EU・英国間の通商協力協定(TCA)を圧倒的多数で可決した。TCAは、1月1日から4月30日を期限に暫定適用(2021年月3月1日記事参照)していたが、今回の採決により欧州議会がTCAを「同意」したことを受けて、EU理事会(閣僚理事会)は4月29日に批准決定をし、5月1日から正式に発効する。

欧州議会が暫定適用の終了期限のぎりぎりまで「同意」を与えなかった背景には、EU側の英国への不信感があるとみられる。欧州議会での投票に先立ち、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は本会議で演説外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますし、TCAには法的拘束力を持つ紛争解決手続きと、一方的に実施可能な救済措置が規定されており、必要な場合にはちゅうちょなくこうした手段を適用すると強調した。欧州委はこれまでも、英国のEU離脱協定の北アイルランド議定書に関する、英国側の一方的な動きに対して、2020年10月(2020年10月5日記事参照)と2021年3月(2021年3月16日記事参照)に義務不履行手続きをとっており、後者は4月29日時点でも係争中だ。欧州議会は、今回の「同意」は、英国政府が協定を誠実に履行することを無条件に信用するものではないとし、TCAの履行を注視するとした。

このほかにもEUと英国は、新型コロナウイルスのワクチンの輸出規制(2021年3月29日記事参照)やEUによる英国の金融サービスに対する同等性認定(2021年4月1日記事参照)など、多くの課題を抱えており、TCAは正式に発効するものの、EU英国関係は今後も紆余(うよ)曲折が予想される。

TCAの履行に欧州議会も関与へ

報道によると、欧州議会による「同意」が遅れた別の背景には、欧州委やEU理事会による欧州議会の権限軽視に対する反発もあったといわれている。EU理事会の監督の下で欧州委が行う通商協定の交渉において、欧州議会は、影響力を最も行使できる批准段階での「同意」手続きを重視する。フォン・デア・ライエン委員長は、就任前に発表した政治的ガイドラインでも、欧州議会の「同意」なしに、通商協定を暫定適用させないと約束していた。しかし、TCAは、英国のEU離脱に伴う移行期間の終了1週間前に合意されたこともあり、十分な審議ができないとして欧州議会の「同意」がないまま、暫定適用が開始された。この手続きの在り方に関して、欧州議会は、今回は絶対的な例外で、先例をつくるものではないと強調した。このような経緯も踏まえ、欧州委は、今後、TCAの履行における重要な決定の際には、欧州議会に対して必要に応じ適切な関与を求めることを宣言し、欧州議会への配慮をみせた。

(吉沼啓介)

(EU、英国)

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