欧州委、気候変動の影響への適応を目指す戦略を発表

(EU)

ブリュッセル発

2021年02月25日

欧州委員会は2月24日、気候変動に柔軟に順応できる社会を目指す、EUの長期的な展望を示す気候変動適応戦略PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。この戦略は、2013年の気候変動適応戦略を改定するもので、気候変動に関するパリ協定やEUで現在審議されている欧州気候法案(2020年3月6日2020年12月15日記事参照)に沿ったかたちで、EUの気候変動への適応能力を強化し、気候変動の影響に対する脆弱(ぜいじゃく)性を最小限に抑えることを目標としている。

これまでにない規模の山火事、熱波、干ばつなどの気候変動による異常気象の影響は、今後数十年にわたって続くと予想されている。気候変動によるEUの損害額は既に年間で平均120億ユーロと試算されているが、今後、世界の温暖化が工業化以前の水準と比べて、3度進んだ場合には、EUの損害額は少なく見積もっても、EUのGDPの1.36%に相当する年間1,700億ユーロに膨れ上がると予測されている。こうしたことから欧州委は、気候変動対策だけでなく、気候変動への社会の適応に向けた取り組みを強化し、対策の実行を加速させる必要がある、とする。

この戦略は、以下の目標を掲げ、それに合わせた様々な行動計画を提案している。

  • よりスマートな適応:適応策の決定は、気候変動関連のリスクや損害に関するデータに基づいて行うことが必要だが、そのためのデータは現状では量、質ともに不十分だ。そこで、官民でのデータ収集を強化し、データへのアクセス向上を目指し、既存の欧州の気候変動適応ポータルサイト「Climate-ADAPT外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」の改善を図る。
  • より体系的な適応:欧州委は、あらゆる政策分野において適応策を積極的に考慮する。加盟国や地方自治体など各レベルで適応策の実施を支援するとともに、欧州構造投資基金などEU予算を利用して、特に地方での適応能力の強化を図る。また、気候変動リスクの国家財政への影響の計測方法を開発し、財政政策への反映を加盟国に求める。
  • 適応のさらなる加速:適応策における課題の1つは、実行可能な対策が限られていることで、ホライズン・ヨーロッパなどのEU予算を利用して、こうした対策の開発と実行を支援する。特に、インフラ建設などを含む適応策への投資は、長期的に費用対効果が高いことから、欧州委はこうした政策へのガイドラインを策定する。

また、気候変動の影響を受けるのはEUだけでないことから、特にアフリカ諸国、小島しょ開発途上国、後発開発途上国を中心に、政策面と資金面の両面から支援を強化するとした。

欧州委のフランス・ティーマーマンス上級副委員長(欧州グリーン・ディール政策総括、気候変動対策担当)は「この戦略は2050年までのEUの気候中立だけでなく、気候に対してもレジリエントなEUを実現するためのもの」と意義を説明した。

(吉沼啓介)

(EU)

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