米下院議会、トランプ大統領への弾劾決議を採択、2度の訴追は史上初

(米国)

ニューヨーク発

2021年01月14日

米国連邦下院議会は1月13日、トランプ大統領に対する弾劾決議案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を賛成過半数で採択した。トランプ大統領は2019年12月にも弾劾訴追されており(2019年12月19日記事参照)、2度の訴追を受けた大統領は米国史上初となる。弾劾手続きは上院に移行するが、民主党のバイデン次期大統領が就任する1月20日までに罷免が成立する見込みはほぼない。

民主党が多数を占める下院(定数435)では、賛成232票、反対197票、棄権4票の投票結果に基づき、決議案が採択された。民主党議員のほぼ全員が賛成票を投じたほか、共和党からも10票の支持が集まった。共和党指導部のケビン・マッカーシー下院院内総務(カリフォルニア州)は弾劾訴追に反対したが、院内総務・幹事に次ぐ影響力を有するリズ・チェイニー下院共和党会議議長(ワイオミング州)が賛成に回るなど、党内分裂が表面化した。なお、採決前日には、民主党がペンス副大統領に対して、合衆国憲法修正第25条に基づき、トランプ大統領を即時罷免するよう求める決議を下院で採択したが、ペンス副大統領はあらかじめ同条の発動を拒否していた(「ウォールストリート・ジャーナル」紙電子版1月12日)。

弾劾決議案を起草したデイビッド・シシリーニ議員(民主党、ロードアイランド州)は、トランプ大統領が1月6日の上下両院合同会議における大統領選の結果承認(2021年1月8日記事参照)を妨害する目的で、デモによる暴動を扇動したと指摘した。また、同大統領が選挙に不正があったとして、その結果を認めず、1月2日にはジョージア州の大統領選の結果を覆すよう、同州のブラッド・ラッフェンスパーガー州務長官(共和党)に電話で要請したことを問題視している。決議案は、大統領のこれらの行為が重罪に当たり、平和的な権力移行を妨げ、民主主義を脅かしたとして、大統領職の罷免や公職からの追放を求める内容になっている(注1)。

トランプ大統領の罷免成立には、上院で3分の2の支持が必要となる。上院100人のうち、51人は共和党が占め(注2)、罷免には同党議員の支持を一定数要する。さらに、現時点で上院の審議日程を決める権限を持つ共和党のミッチ・マコーネル院内総務(ケンタッキー州)は「弾劾裁判の手続きを勘案すれば、バイデン次期大統領の就任前に、公正で真摯(しんし)な裁判が完了する可能性はない」との声明を出し、大統領就任式の1月20日までの7日間は、安全な就任式と秩序だった権力移行を円滑に進めることに全力で集中すべきとしている。在ワシントンの政治専門家によると、トランプ大統領の退任後に弾劾手続きが継続できるか否かをめぐっては専門家の間でも法解釈が分かれている。

(注1)なお、1月11日に発表されたキニピアク大学の世論調査(1月7~10日実施、回答者数1,239人)によると、民主主義が脅威にさらされているとする有権者は約4分の3(74%)だった。また、52%がトランプ大統領を罷免すべきとしている。

(注2)上院は、1月5日のジョージア州の2議席の決選投票の民主党勝利(2021年1月7日記事参照)を踏まえ、民主党、共和党ともに50議席を占める予定だが、同州の選挙結果の確定手続きが終了していないため、民主党48議席、共和党51議席となっている(2021年1月13日現在)。なお、ジョージア州の2議席については、選挙結果の確定まで、1議席は任期切れにより空席、もう1議席はケリー・ロフラー上院議員(共和党)が現職にとどまる。

(藪恭兵)

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