米国、天然ガスパイプライン「ノードストリーム2」に対する制裁対象範囲を拡大

(ロシア、米国、ドイツ、EU)

欧州ロシアCIS課

2020年10月27日

米国国務省は10月20日、ロシアが建設を推し進める天然ガスパイプライン「ノード・ストリーム2」(NS2)および「トルコストリーム」(TS)に対する制裁対象範囲を拡大した。海底パイプライン(PL)敷設船舶への設備導入・更新作業に関わる支援が制裁対象に含まれた。NS2運営会社から、欧州10カ国以上の120社以上に被害が生じるとの声明が出される一方、影響は限定的との見方もある。

今回の国務省による発表はNS2への制裁内容が記載されている「2020会計年度の国防授権法セクション7503」(2020年1月8日記事参照)の解釈を説明するガイダンスの位置付け。「海洋でのPL敷設に従事する船舶の供与」という点が曖昧だったものをより明確にする内容で、「PL敷設作業を行う船舶への設備導入・更新のためのサービス・便宜供与・ファイナンスを提供する事業者を含む」としている。

NS2の実施主体であるコンソーシアム「株式会社ノード・ストリーム2」(注)によると、今回の制裁で欧州10カ国以上の120社以上に被害が出ると指摘し「NS2に対するいかなる制裁も西側の建設事業者、投資家に影響を及ぼす」とコメントしている(「インターファクス通信」10月21日)。一方、エネルギー分野が専門のコンサルティング会社ブィゴン・コンサルティングのマリヤ・ベロワ調査ダイレクターは「過去に米国議員団が提起したプロジェクト実施に致命的な条項(2020年6月11日記事参照)が今回の措置には含まれていない」と評し、影響は限定的との見方を示した(「コメルサント」紙10月21日)。

「コメルサント」紙(10月14日)によると、NS2の残りの敷設必要区間は160キロ。唯一操業しているロシアの海底PL敷設船「アカデミク・チェルスキー」はカリーニングラード近郊で設備のテスト中の段階にあり、加えて、10月1日にはデンマーク・エネルギー庁が同国大陸棚でのNS2の操業を許可するなど、完工に向けて作業が着々と進んでいる。

一方、欧州議会は9月15日に、ロシアの反政府活動家アレクセイ・ナワリヌィ氏の毒殺未遂疑惑を根拠としNS2の建設停止を求める決議を採択。ポーランド競争・消費者保護局(UOKiK)は10月7日、NS2の出資者6社に対して、UOKiKの承認を得ずにNS2の建設・運営に関わる合弁会社設立と資金調達契約を多数締結したことを理由に290億ズロチ(約7,830億円、1ズロチ=約27円)を超える罰金を科すことを表明しており、NS2によって恩恵を受ける国とそうでない国との間でのせめぎ合いが続いている。

(注)NS2の設計・建設・運営を行う企業連合。ロシアのガスプロム、フランスのエンジ―、オーストリアのOMV、英国・オランダのシェル、ドイツのユニパー、ウィンターシャルといった欧州とロシアのエネルギー大手6社で構成される。

(齋藤寛)

(ロシア、米国、ドイツ、EU)

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