米国、天然ガスパイプライン「ノードストリーム2」と「トルコストリーム」への制裁法令を制定

(ロシア、米国、ドイツ、欧州)

欧州ロシアCIS課

2020年01月08日

米国政府は2019年12月20日、ロシアが建設を推し進める天然ガスパイプライン「ノード・ストリーム2」(注1、NS2)と「トルコストリーム」(注2、TS)への建設に関わる船舶および関連取引に対する制裁法令を制定した。

今回の制裁は、「2020会計年度の国防授権法」のセクション7503に記載されている。本法によると、対象となるのは、米国国務省が特定したa.NS2およびTSプロジェクト建設向けの水深100フィート(約30メートル)以上の海洋でのパイプライン敷設に従事する船舶(作業を引き継いだ船舶を含む)、および、b.当該船舶の販売・リース・供与およびこれらの取引を故意に実施したとみなされる外国人。

制裁に違反した場合、外国人に対しては、米国への入国不許可、入国に必要なビザ・その他書類、移民国籍法に基づく利益の受け取り資格の喪失、現時点で有効なビザの取り消し、米国内の財産・権益、米国人の所有・管理下にある財産・権益の差し押さえと取引の禁止を科すとしている。

加えて、本制裁の実施に向けた規則への違反や、違反を試みたり共謀したりした者に対して、国際緊急経済権限法のセクション206に記載されている罰則〔最大25万ドルの民事罰、最大100万ドルもしくは(および)懲役20年の刑事罰〕を科すとしている。

本制裁法令の影響は早速、生じている。スイスのパイプライン敷設大手オールシーズグループは12月21日に、NS2建設に関わるパイプライン敷設作業を停止したと発表した。この動きに対して、ロシア・エネルギー省のアレクサンドル・ノワク相は「現時点でNS2は94%完成し、残りはわずか160キロ。数カ月の遅れは見込まれるが、(ロシアが)自力で完成させることは可能。2020年の稼働を確信している」と述べた(「コメルサント」紙12月26日)。ガスプロムは自社グループの建設会社を用いて残りの部分の敷設は可能としており(「コメルサント」紙12月23日)、ドイツ政府も制定日から30日以内に行う作業に対しては罰則が科されないこともあり、作業を急ぐと報じられている(「コメルサント」紙12月17日)。

ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は今回の制裁法令について、到底受け入れられるものではなく、ロシアの国益に鑑みた報復を必ず実施するとコメント(「HTB」12月23日)。ドイツのアンゲラ・メルケル首相は「この米国による域外制裁措置を認めない」と発言したものの、ドイツが米国に対して報復措置は取らない方針と述べた(「フィナンシャル・タイムズ」紙12月19日)。

なお、今回の措置は、米国が自国産の液化天然ガス(LNG)の欧州市場開拓に向け、ロシアが牛耳っている欧州の天然ガス市場に風穴を開けるためのものとの見方もある(2019年6月18日記事参照)。

(注1)ロシアからバルト海底を通過し、ドイツに天然ガスを輸送するパイプラインの第2弾。

(注2)ロシア産ガスのトルコ向けに輸送する、黒海海底を通過するパイプライン。

(齋藤寛)

(ロシア、米国、ドイツ、欧州)

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