2021年の歳出計画、経済危機下でも大統領の意向を最優先

(メキシコ)

メキシコ発

2020年09月11日

メキシコ大蔵公債省が9月8日に国会に提出した2021年歳出計画によると、2021年の歳出は経常的経費が前年比1.7%減、年金経費が同6.6%増、投資的経費が5.3%増で、一般会計全体では1.3%増の増加にとどめている(添付資料表1参照)。財政収支均衡を意識した緊縮予算(2020年9月11日記事参照)となっており、2020年の大幅なマイナス成長からの回復を後押しするような財政出動はない。

省庁別の予算(添付資料表2参照)をみると、保健省(前年比9.1%増)、国防省(同15.7%増)、観光省(同7.4倍)、農地土地都市開発省(同46.9%増)、社会保険庁(IMSS、同5.7%増)などの増額が目立つ。保健省や社会保険庁の予算増は、新型コロナウイルス感染症対策として病院の医療インフラ拡充やワクチン購入などに費やされるとみられる。国防省の予算増は、治安対策を強化するのではなく、国防省が建設を取り仕切っているサンタルシア空軍基地の拡張(2019年11月11日記事参照)に214億1,480万ペソ(約1,071億円、1ペソ=約5円)を投ずるからで、同投資額を除けばほとんど増えていない。また、観光省予算(386億1,340万ペソ)の94%が観光省傘下の国家観光振興基金(FONATUR)によるマヤ観光鉄道(2020年5月25日記事参照)の予算で、観光プロモーションを強化すわけではない。農地土地都市開発省の予算増は、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領の重点福祉プログラムの1つの低所得層向け住宅購入・改修補助プログラムに83億6,000万ペソを向けるためだ。

地方交付金は6.4%削減、一部の州から強い反発

大統領が重視する福祉プログラム(高齢者向け一律年金、各種奨学金、農村、漁業、植林、零細事業者向けの制度融資など)と、大規模インフラプロジェクト(サンタルシア空軍基地拡張、ドスボカス新製油所建設、マヤ観光鉄道、テワンテペック地峡開発など)に向けた2021年予算は合計で4,809億2,510万ペソに及び、歳出総額の7.7%を占める。

他方、州や市町村の主な財源となる地方交付金は、税収や石油収入の増減に連動して配分総額が決まるが、現時点では前年比6.4%減ると見込まれている。メキシコの税制は連邦税が主体で、州税や市町村税が少ないため、地方独自の財源は限られている。また、地方税は宿泊税や娯楽税など観光業の動向に左右されるものが多く、「新型コロナ禍」で観光業の打撃が大きい中で、2021年の州の税収はこれまで以上に厳しい状況になるとみられている。地方交付金が減る一方、大統領が重視するプログラムやプロジェクトに多額の予算が配分される現状を受け、一部の州知事からは強い不満の声が上がっており、地方交付金の配分方法の変更を求める声も強まっている。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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