新型コロナウイルス感染拡大で、欧州産業界から相次ぐ悲鳴

(EU)

ブリュッセル発

2020年03月19日

今や「パンデミックの中心地」とも呼ばれる欧州では、経営者団体や産業団体から新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経営悪化や今後の事業継続についての不安や懸念の声(2020年3月18日記事参照)が相次いでいる。

欧州の港湾運営事業者は貨物流通維持のため、緊急時対応計画を発動

欧州ホテル・外食産業協会(HOTREC)など50の観光関連産業団体を束ねる「欧州観光マニフェスト」は3月17日付の声明PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)で、欧州での新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済の落ち込みは、特に観光・旅行産業を直撃しており、中小企業の破綻や数百万の雇用が失われる状況に直面しているとの見解を示し、欧州委員会と加盟国に対して、主に次の迅速な支援を要請した。

  • 政府からの観光・旅行産業に対する一時的な国家補助給付
  • 流動性不足解消のための短期・中期融資への迅速かつ簡易なアクセス
  • 労働者の失業と収入損失からの保護(短期労働スキーム提供、スキルアップ及び再教育プログラム)および自営の観光関係事業者に対する支援
  • 欧州失業再保険制度の迅速な導入
  • 租税・社会保険負担の猶予

また、欧州港湾協会(ESPO)も3月18日外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます付の声明で、新型コロナウイルス感染拡大を回避するための対策を講じつつ、今後数週間の事業継続を担保するため、欧州域内の港湾運営事業者は緊急時対応計画(contingency plans)を発動している厳しい実状を明らかにした。こうした中、ESPOは欧州委員会およびEU加盟国に貨物輸送の維持・継続をもとめ、特に一部加盟国が実施している国境閉鎖措置が貨物輸送の妨げにならないよう注意喚起している。

この他、欧州配合飼料生産者連盟(FEFAC)、欧州穀物・油糧作物輸出入組合(COCERAL)など3団体は3月17日付の声明PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)で、欧州での新型コロナウイルス感染拡大に伴う食品、農業用飼料供給の混乱回避を欧州委に要請。これらの産業団体は特に飼料について、欧州委が公表した「国境管理措置に関するガイドライン」(2020年3月17日記事参照)の必需物資リストへの農業用飼料の追記を求めた。

他方、欧州製薬団体連合会(EFPIA)は3月18日付の声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、新型コロナウイルス問題が欧州の医薬品産業、特にブランド医薬品の供給に対して短期的に及ぼす喫緊のリスクは限定的との見解を明らかにした。需給動向への影響は商品単位で異なるとしたが、現行の医薬品やワクチンの調達について深刻な影響は現時点で認識しておらず、欧州医薬品庁(EMA)にも医薬品の供給逼迫の事例は報告されていないとした。ただし、これは新型コロナウイルス問題に伴う混乱が「今後の数カ月を超えて続かない」ことが前提にあり、この規模のパンデミックについて不確実性は付き物だと指摘。この前提が崩れた場合のリスクを示唆している。

なお、ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)は3月18日付の声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、新型コロナウイルス対策のため、緊急に需要のある医療機器・防護機器の供給に向けて欧州産業界が生産手法の見直しや専門技能の共有などの分野で異例の連携に着手する意義を強調。EU諸機関および加盟国政府などとも緊密な連携を図ると述べた。また、EU単一市場と域内のサプライチェーンの維持が、今後数週間の必需物資の供給に不可欠であると同時に、欧州域外との貿易・投資についても、その重要性を忘れるべきではないと指摘している。

(前田篤穂)

(EU)

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