減少するブラジルの労働訴訟件数

(ブラジル)

サンパウロ発

2020年01月22日

ブラジルにおける労働訴訟件数が減少している。2016年8月に発足したミシェル・テーメル前政権下の2017年11月に、改正・施行された労働法が影響を与えている(2017年7月25日記事参照)。

ブラジル高等労働裁判所(TST)の1月4日の発表によると、労働法改正前の2017年1~10月のブラジル全国の労働訴訟件数は220万件だったが、2019年同期の件数は150万件と32%減少した。

労働訴訟件数減少の要因はさまざまだが(2018年6月6日記事参照)、ジェトロ・サンパウロ・プラットフォームコーディネーターのジルセウ佐藤弁護士は、次のとおり説明している。

  1. 原告の労働者側が敗訴した場合、弁護士費用および鑑定士費用の支払いを命ぜられるようになった。
  2. 第1回公判に欠席した場合、原告は裁判費用の支払いを命ぜられるようになった。
  3. 原告による要求額の提示や具体的な要求内容の提示が求められるようになった。
  4. 労働契約解約手続きの際に労働組合への出頭義務が免除されたため、組合から労働訴訟を勧められる機会が減った。

ジルセウ佐藤弁護士によれば、改定される前は、原告の労働者側が悪意を持って公判を欠席することも多かった。また、労働者側が裁判に敗訴した場合でも、裁判費用や勝訴した企業側の弁護士費用を負担する必要がなかった。また、原告による要求額や要求内容が大まかなものであっても裁判を起こすことができ、さらには労働組合がとりあえず裁判を起こすことを推奨するケースも多く、よって有象無象の訴訟が存在したという。

改正労働法施行前に実施された、ジェトロの「2017年度中南米進出日系企業経営実態調査(実施時期:2017年10月18日~11月22日)PDFファイル(7.8MB)」によると、「雇用・労働面での経営上の問題」の中で、「労働訴訟問題」と回答した企業の割合は、「従業員の賃金上昇率」と回答した企業の割合に次いで2番目に高く、回答割合は5割を超えている。なお、改正労働法の改定項目は200以上に及ぶため、ブラジル企業でも改定内容全体を把握するのに時間を要する。そのため、当地では2018年以降、進出日系企業に対する労働法改正セミナーが度々開催されている。今後、改正労働法に対する理解がさらに進むにつれて、訴訟件数が減少することが期待される。

労働訴訟に影響を与えていた組合も、弱体化が顕著になっている。とりわけ、労働法の改正に伴い規定された「使用者による組合費の義務的徴収の廃止」が大きな影響を与えている。義務的徴収の廃止に対しては、組合側から違憲訴訟が提起されたが、2018年6月に最高裁がその合憲性を認める判断を下した。経済省労働局の最新データによると、ブラジル国内の組合費徴収額は2017年の20億レアル(約520億円、1レアル=約26円)から2018年に2億8,290万レアルに減り、2019年1~11月には8,820万レアルへと、2017年比で96%減と激減している。以前の労働法の下では、企業は、労働者の1日分の給与相当額を徴収し、1年に一度、組合に納入する義務があったが、改正労働法ではこの義務がなくなった。

ジルセウ佐藤弁護士によると、組合の大半は資金難に陥り、職員解雇や事務所移転、活動の縮小、ほかの組合との合併や統合が進んでいるという。

(大久保敦)

(ブラジル)

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