英国のブレグジット、焦点はEU離脱後の移行期間へ

(英国、EU)

ロンドン発

2019年12月13日

英国の総選挙で保守党が大勝し(2019年12月13日記事参照)、2020年1月31日に英国のEU離脱(ブレグジット)が実現することがほぼ確実となったことを受け、市場ではポンドが急伸するなど、安堵(あんど)が広がっている。

しかし、これでブレグジットによる不透明感が一掃されるわけではない。離脱後、英国とEUは離脱前の状態が維持される「移行期間」に入るが(添付資料参照)、同期間は2020年末で終了する。この間に英国とEUが自由貿易協定(FTA)を締結・発効できないと、移行期間終了後に関税などが発生し、「合意なき離脱(ノー・ディール)」に似た状態に陥ることが懸念されている。EUがこれまでに締結してきたFTAなどの貿易協定の大半は、交渉開始から批准まで数年を要しており、11カ月の移行期間は極めて短い。EU一般データ保護規則(GDPR)の英国に対する十分性認定なども、この間になされなければならない。さらには、10月に合意したアイルランド・北アイルランドに関する取り決め(2019年10月18日記事、添付資料参照)に基づいた関税徴収メカニズムの詳細な制度設計や通関手続きに必要となる設備の導入なども、移行期間中に終えなければならない。英紙「フィナンシャル・タイムズ」が入手したEU離脱省の文書は、同地域に関する合意を履行するための準備が大きな課題だと警告しているという。

英EU双方が望めば移行期間は最大2年間延長できるが、ブレグジット党などへ票が流れることを阻止するため、保守党はマニフェスト(政権公約)で延長はしないと明言している。保守党の議席が定数の半数を大きく上回ったことで、ジョンソン首相は公約を撤回、党内の最強硬派議員(注)の反対を押し切って移行期間延長を議会に承認させることも不可能ではない。ただ、10月末の離脱を延期した際のように野党(2019年10月21日記事参照)に責任を押し付けることはできないため、首相の政治的リスクもはらむ。

移行期間の延長は、2020年6月末までに英国・EUの合同委員会で採択する必要がある。保守党の勝利で2020年1月末のノー・ディールの可能性はほぼなくなった一方で、同様の懸念は同年末に持ち越されるわけで、同年半ばに最初の山場を迎えることになりそうだ。

(注)テレーザ・メイ政権による3度のEUとの合意案採決で造反し続けた保守党議員のうち、最強硬派議員は約30人(2019年4月1日記事参照)。

(宮崎拓)

(英国、EU)

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