米国労働省、15年ぶりに残業規則を改定

(米国)

ニューヨーク発

2019年10月15日

米国労働省は9月24日、残業代の支払いの要否を判断する給与基準などを改定する「最終規則」(Final Rule)を発表した外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます。労働省は2019年3月から5月にかけて改定案に対するパブリックコメントを募集しており(2019年4月3日記事参照)、今回発表された最終規則はそれを踏まえたものだ。同規則は、2020年1月1日から施行される。

米国では、公正労働基準法(FLSA:The Fair Labor Standards Act of 1938)に基づき、残業代の支払いが免除される従業員(エグゼンプト従業員)と、免除されないそれ以外の従業員(ノンエグゼンプト従業員)が規定されている。最終規則により、エグゼンプト従業員の要件として定められている給与基準が、現行の週給455ドル(年収2万3,660ドル)から684ドル(年収3万5,568ドル)に引き上げられた。週給684ドル未満の従業員、または週給684ドル以上でも労働省が定める「任務テスト(duties test)」(注1)の基準に満たない従業員はノンエグゼンプト従業員となり、ノンエグゼンプト従業員が週40時間を超えて労働した場合、雇用主は、40時間を超える分の残業代を時給の1.5倍にして支払うことが義務付けられることになる。また、高報酬労働者(Highly Compensated Employee、HCE)の給与基準は、現行の年収10万ドルから年収10万7,432ドルに引き上げられた(注2)。

残業規則が改定されるのは2004年以来15年ぶりで、最終規則により、新たに約130万人の労働者が残業代支払いの対象となる見込みだ。

米国商工会議所のマーク・フリードマン副会頭(労働政策担当)は9月24日付の声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、「残業代支払いのための新たな給与基準は、これまで15年間続いてきた基準に対するバランスの取れた、責任ある更新」で、同規則は「給与基準の計算のための公式を確定させ、雇用主と労働者の双方が利益を得るための確実な基盤を整える」と評価した。

エグゼンプト従業員の要件となる給与基準については、2016年12月にも、現行の年収2万3,660ドルから年収4万7,476ドルに引き上げられる予定だったが、施行直前に連邦地裁に差し止められた(2016年12月1日記事参照)。労働省が2019年3月に最終規則案を公表して以降、新たな給与基準が、2016年に施行される予定だった給与基準より低く抑えられたことについて、労働者側などから批判の声が上がっていた。米国労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)のリチャード・L・トラムカ会長は、給与基準が低く設定されたことにより、残業代支払いの対象となっていたはずの280万人の労働者が見捨てられたことは「恥ずべきことだ(disgraceful)」と批判していた(2019年3月8日付プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。ワシントンのシンクタンクである経済政策研究所のハイジ・シアホルツ・シニアエコノミストは8月22日付のコメント外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、最終規則案には1975年以降のインフレが考慮されておらず、もしそれが反映されていれば、今日の給与基準は年収5万6,500ドル相当だとする。

(注1)任務テストは、労働省のウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますから確認できる。

(注2)高報酬労働者が、事務または非肉体労働に従事し、かつ習慣的・定期的にエグゼンプト従業員に該当する職責に就いている場合に、任務テストの全ての基準を満たさなくても、残業代の支払いが免除される。

(吉田奈津絵)

(米国)

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