米中通商問題セミナーを東京で開催、対米投資規制の現状について講演

(米国、中国)

米州課

2019年07月19日

米中通商問題がアジアを含むサプライチェーンに与える影響が懸念されている中、ジェトロは7月12日、米中通商問題の状況や、米国が進める対米投資規制の最新動向に関するセミナーを東京で開催した。

貿易摩擦の背景には米中間の技術覇権争いがあるといわれ、米国は、輸出管理や対米投資規制を通じて戦略的技術の国外流出を防ぐ動きを強めている。中でも、2018年8月に米国で成立した外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA、注1)や輸出管理改革法(ECRA、注2)は、日本企業のビジネスへの影響も大きいと見込まれている。

写真 会場の様子(ジェトロ撮影)

会場の様子(ジェトロ撮影)

セミナーではまず、ジェトロ海外調査部の川田敦相上席主任調査研究員が、米中貿易摩擦とビジネスへの影響について、米国向け生産拠点を中国から第三国へ移管するケースもみられ、中国を軸としたこれまでのグローバル・サプライチェーンへの影響が一層顕在化していくことが懸念されるとし、企業は今後の海外事業戦略について入念な対応が求められると指摘した。続いて、同部の藤井麻理米州課長は、米国による対中措置の背景と動向について、対中追加関税、輸出管理の強化、対米外国投資審査の強化、ファーウェイなどからの政府調達制限などの措置について解説した。

セミナー後半では、米国のコビントン・バーリング法律事務所のマーク・プロトキン弁護士および森永一郎弁護士から、対米外国投資委員会(CFIUS、注3)による審査への対応について実践的な助言があった。プロトキン氏によると、CFIUSは米国の通商政策や貿易摩擦とは関係なく、あくまで国家安全保障上の脅威を取り除くという観点で審査を行っているので、米国への投資を検討している企業は、中国やイランなどが関係したり、そのような国で研究開発や先端技術を使った製造業務を行ったりしている場合は特に、取引や事業情報を事前によく整理し、CFIUSに疑念を抱かれないように申告書に明記しておくことが何よりも重要だという。また、共同投資を行う場合は、信頼性の高い日本企業であっても、パートナー企業によっては承認されない恐れもあるため、パートナー企業の事業内容や株主構成などを精査することが重要だと指摘した。

FIRRMAの一部条項を先行実施するかたちで導入されたパイロットプログラム(注4)については、対象となる産業分野が幅広く、定義が不明確な部分もあるが、FIRRMAの完全施行に合わせて対象範囲がある程度絞り込まれ、定義も明確化されるだろうと言及した。

近年、CFIUSの審査件数は急増しており、通常の任意申告の場合5~6カ月程度の審査期間を要するなど手続きが長期化しているため、米国への投資は、こうしたCFIUSの手続きを念頭に置きながら検討していくべきだとした。

本セミナーの様子は、2019年8月16日(金)までオンデマンド配信中

写真 講師のマーク・プロトキン弁護士(ジェトロ撮影)

講師のマーク・プロトキン弁護士(ジェトロ撮影)

(注1)FIRRMAの詳細については2018年9月3日付地域・分析レポートを参照。

(注2)安全保障上の脅威となる技術の米国からの輸出、再輸出、みなし輸出の管理対象分野に「新興・基盤的技術」が追加された。ただし、定義や細則については策定作業中で、ECRAが効力を有する具体的な日は設定されていない。

(注3)CFIUSの詳細については2018年5月24日付地域・分析レポートを参照。

(注4)パイロットプログラムについては2018年10月16日記事を参照。

(綿引文彦)

(米国、中国)

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