トランプ米大統領が訪英、ブレグジット後の通商交渉の難題が早くも浮き彫りに

(英国、米国)

ロンドン発

2019年06月06日

米国のドナルド・トランプ大統領が6月3日から5日の3日間、英国を訪問した。大統領としての訪英は2018年7月(2018年7月17日記事参照)に続く2度目で、今回は国賓として訪問。エリザベス女王やテレーザ・メイ首相との会談、ドイツやフランスなど関係国の首脳も出席した英南部ポーツマスでのノルマンディー上陸作戦75周年の記念式典などの日程をこなした。

トランプ大統領の訪英中、経済分野で最も注目されたのは、英国のEU離脱(ブレグジット)が実現すれば直ちに着手することで双方が一致している米英間の通商交渉に関する発言だ。大統領は4日午後に行われた米英首脳会談後の共同記者会見外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、「英国がブレグジットの準備を進める中、米国は両国間で目を見張るような通商合意を実現すると約束している」とコメント。「恐らく現在の2倍、いや3倍(の貿易量)になる」と続けた。メイ首相も、首脳会談に先立って行われた両首脳と米英主要企業幹部との会合で、「偉大な両国関係はさらに深化できる。当然、2国間のFTA(自由貿易協定)やより広範な将来の経済関係を伴うものだ」と発言している。

一方、会見後の質疑では早くも先行きに対する不安が露呈した。英国の国営医療サービス(NHS)が通商交渉の対象に含まれるのか記者から問われたトランプ大統領は「全てが対象になる」と肯定。メイ首相が慌てて「もちろん双方が協議し、何を対象に含め、除外するのか合意するものだ」と牽制する一幕があった。NHSは大半の財源が税金で賄われ、英国居住者がほとんどの医療サービスを無料で利用できる巨大事業体。かねて製薬・保険など関連産業で外国企業のアクセスを拡大すべきとの声がある一方で、英国にとってNHSの維持は政治的にも極めて機微な「聖域」だ。事実、大統領の発言から間を置かず、マット・ハンコック保健・ソーシャルケア相、リアム・フォックス国際通商相、保守党の次期党首候補でもあるジェレミー・ハント外相やドミニク・ラーブ前EU離脱相、さらに野党・労働党のジェレミー・コービン党首ら、多数の閣僚や野党幹部が異口同音に大統領のコメントを否定するなど、波紋が広がった。

トランプ大統領はその後、英民間放送局ITVの番組収録で、「NHSは通商交渉の対象にならない」と軌道修正したが、交渉の俎上(そじょう)に乗せる意向はこれ以前にもアレックス・アザー米保健福祉長官やウッディ・ジョンソン駐英大使らが口にしているほか、米国通商代表部(USTR)が2月に公表した対英通商交渉の目的でも、内外無差別を含む非関税障壁撤廃や国有企業が論点として挙げられている(2019年3月5日記事参照)。

トランプ大統領が見せた米英通商交渉に対する積極姿勢は、ブレグジット後のEU以外との通商交渉を進めたいEU離脱派を勢いづかせるものだが、現実はそう簡単ではない。

(宮崎拓)

(英国、米国)

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