対米通商摩擦など背景に、先行き警戒感広がる欧州鉄鋼産業

(EU)

ブリュッセル発

2019年05月17日

欧州鉄鋼連盟(EUROFER)は5月16日、(1)(米国での通商問題を背景とするEU市場への)鉄鋼流入(2018年6月7日記事参照)、(2)EU経済の成長鈍化、(3)高く不安定な原料価格、(4)炭素価格の高騰などが、欧州鉄鋼産業に深刻な危機をもたらし得るとする声明を発表。今後の欧州鉄鋼産業の先行きに強い警戒感をにじませた。

セーフガード措置の不完全性も産業停滞の一因と指摘

同連盟は、米国政府が2018年6月1日からEU原産の鉄鋼に対する追加関税の賦課を決定(2018年6月1日記事参照)したことから、約2年続いた欧州鉄鋼産業の安定期は2018年半ばで終わりを迎えたとの認識を示した。連盟によると、欧州の鉄鋼産業の先行きに関わる不安要素は複合的とみられるが、設備稼働率の低下や生産調整などのかたちで欧州では徐々に顕在化しているという。転換点前の2017年には約8,000、2018年にはさらに約2,000もの直接雇用が欧州で創出されたが、現在の先行き不安要素が長引く場合、雇用は喪失増に逆転し得るというのが同連盟の見立てだ。

連盟が5月7日に公表した「経済および鉄鋼市況予測(2019~2020年)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」では、2018年に3.3%拡大した欧州鉄鋼需要は、2019年には0.4%のマイナス成長に陥るとの厳しい見通しとなっている。これに対して、EUへの鉄鋼輸入量については、2018年に前年比で12%増加し、「2019年にはさらに拡大する可能性がある」という。

連盟のアクセル・エガート会長は、現在のEUの鉄鋼に関する暫定的な緊急輸入制限(セーフガード)措置(2018年7月19日記事参照)について、「いろいろと留意して発動されたが、結局のところ、(鉄鋼の)輸入急増を食い止めるには至っていない」「欧州鉄鋼メーカーの収益性は低迷し、人材や技術、低炭素化の取り組みなどへの投資余力は奪われている」と指摘。EUに事態打開に向けた効果的な政策発動の必要性を示唆した。

(前田篤穂)

(EU)

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