欧州委が鉄鋼の暫定セーフガード措置発動、産業界の意見は対立

(EU、米国)

ブリュッセル発

2018年07月19日

欧州委員会は7月18日、鉄鋼に関する暫定的な緊急輸入制限(セーフガード)措置を7月19日から発動すると発表した。しかし、欧州ではこの決定を支持する鉄鋼産業界と、反対する自動車メーカーなど鉄鋼ユーザー産業の間での意見対立が先鋭化している。

欧州委の決定めぐり、川上・川下でスタンス異なる

欧州委は今回の暫定措置発動について、米国での鉄鋼に対する追加関税賦課に伴う、第三国からEU市場への余剰鉄鋼の流入に対処するためのものとしている。セシリア・マルムストロム委員(通商担当)は「米国での鉄鋼に対する追加関税賦課はEU鉄鋼産業に深刻な打撃をもたらす、(第三国からのEUへの)余剰鉄鋼の流入を引き起こしている。この急増する輸入からEU域内産業を守るためにはセーフガード措置以外、われわれに打つ手はない」と語った。ただ、「鉄鋼生産者と、輸入鉄鋼を必要とする自動車、建設などのユーザー産業の双方の権益のバランスに配慮した」とも述べ、遅くとも2019年初めまでにセーフガード措置発動の最終決定を行うため、鉄鋼の輸入状況の監視を続けるという。

今回の暫定措置は鉄鋼23品目を対象に、関税割当枠(クォータ)を設定し、EUへの過去3年間の輸入実績の平均に基づく割当枠を超過した場合、その時点から25%の関税を課すというもの。暫定措置は最長200日間有効となるが、EU向け輸出が限られる開発途上国や、経済関係が緊密な欧州経済領域(EEA)からの輸入については適用除外を認める。

今回の暫定措置発動について、欧州鉄鋼連盟(EUROFER)は7月18日付の声明で支持を表明。アクセル・エガート会長は「今回の措置で、EU鉄鋼市場の安定継続が確保され、鉄鋼メーカーは米国市場を締め出された鉄鋼の輸入急増に苦しめられる心配はなくなる」とコメントしている。

これに対して、欧州自動車工業会(ACEA)は同日付声明で、欧州委の決定について「強い遺憾の意」を表明している。ACEAは6月26日、欧州の鉄鋼ユーザー産業8団体と連名で、EUとしてのセーフガード措置発動に対する懸念(2018年6月28日記事参照)を欧州委に訴えていた。ACEAのエリック・ヨナー事務局長は「自動車メーカーは94%もの車両用鉄鋼を欧州で調達している」とし、「今回の措置は既に高騰している鉄鋼価格をさらに上昇させる点で、(欧州自動車産業の)競争力低下につながる」と指摘、欧州委の対応に警戒感を強めている。

(前田篤穂)

(EU、米国)

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