対ロ制裁関連情報の拡散を禁ずる議員立法案に非現実的との声
(ロシア、米国)
欧州ロシアCIS課
2019年05月27日
米国による対ロ制裁の対象者・企業に関する情報、制裁の導入・実施に寄与する情報の収集と保管、マスメディアやインターネットを通じた拡散を禁止する法案が5月15日、ロシア下院に提出された。野党の公正ロシア所属のミハイル・エメリヤノフ議員が起草したもの。立法目的について、制裁対象者に関連する企業情報が米国財務省外国資産管理局(OFAC)に流出しており、これがロシア経済の悪化と、米国など非友好国によるロシアへの政治的影響力の行使、制裁措置の導入・強化、制裁対象リストの拡大につながっている状況への対処と説明している。他方、有識者からは、非現実的な内容のため、早晩廃案となるだろうという見方が示されている。
法案は刑法第281条に、a.制裁対象者および制裁導入・実施に寄与する情報(注)のマスメディアおよびインターネットを通じた拡散、b.制裁対象者に関係する人物の情報および制裁導入・実施に寄与する情報の拡散を目的とした情報収集・移転・保管、c.b.の情報の非友好国および同国籍法人の傘下にある組織への移転、移転を目的とした収集・窃取・保管を禁止する条項を追加し、刑法第126条に対ロ制裁措置の効力発揮に寄与する制裁対象者への誹謗(ひぼう)中傷を禁ずる内容を加えるもの。これらに違反した場合、最大5年間の禁固と最大500万ルーブル(約850万円、1ルーブル=約1.7円)の罰金、さらに特定の活動・役職を担う権利の5年間の剥奪を科すとしている。
法案は米国追加制裁への対抗措置法(2018年6月7日記事参照)に修正を加えるものだが、法案提出時点で、関係するデジタル発展・通信・マスコミ省、連邦通信・IT・マスコミ監督局とは協議していない。
主要経済紙「コメルサント」副編集長で政治評論家のドミトリー・ドリゼ氏は「法案はジャーナリストやブロガーを対象とし、(制裁対象者の)政府関係者やビジネスマンに関する記事を執筆したり、話したりすることを禁止するものだ。制裁対抗措置よりはインターネット関連の規制(2019年5月8日記事参照)の意味合いが強い」と指摘。2018年に制裁順守行為に対して罰則を科す法案はビジネス界の猛反発を受け(2018年5月18日記事参照)、現時点で保留となっている点を挙げ、「この法案も非現実的な内容のため、早晩廃案となるだろう」と評した(「コメルサント」紙5月16日)。
ロシア政府は制裁対象のさらなる拡大・強化への対応策として、情報公開制限に動いている。連邦政府は2018年1月、国防調達、軍事技術協力、制裁対象となっているロシア法人・個人との取引に関連するロシア法人の情報公開を制限する連邦政府決定(2018年1月10日付第10号)に署名した。5月上旬には、ロシア財務省がロシア中央銀行に対し、制裁対象の拡大から金融機関を守るため、銀行合併情報を秘密とすること、制裁対象となっている金融機関に特別措置を講じることを提案したと報じられている(「コメルサント」紙5月7日)。
(注)企業活動情報、税務情報、銀行情報、その他法律で保護される秘密・情報としている。
(齋藤寛)
(ロシア、米国)
ビジネス短信 0ef70963e5178f8c