USTR、対中制裁に関する301条調査報告書の改定版発表

(米国、中国)

ニューヨーク発

2018年11月29日

米通商代表部(USTR)は11月20日、1974年通商法301条(以下、301条)に基づく対中制裁措置に関する調査報告書の改定版PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した。USTRは3月22日に中国政府の技術移転策などを問題視する調査報告書を発表(2018年6月14日付地域・分析レポート参照)しており、トランプ大統領はその調査結果に基づき、中国に対する301条の追加関税を発動している。今回発表された報告書は、3月以降の動向をまとめたもの。

ロバート・ライトハイザーUSTR代表は「改定版の報告書は、3月の調査報告書の対象だった不公正・非合理・市場歪曲(わいきょく)的な慣行について、中国政府が根本的な変更を行っていないことを示している」とし、関税の発動根拠である中国政府の行為はいまだ是正されていない、との認識を示した。

中国企業による対米VC投資などに危機感

今回の報告書では、3月の報告書でUSTRが問題視した(1)米国の商業コンピュータネットワークへの違法侵入による知的財産や機密情報の窃盗行為、(2)不公正な技術移転策、(3)差別的なライセンス規制、(4)対外投資の4項目について、最近の動向を検証している。なお、3月に発表された報告書では、米国の商業コンピュータネットワークへの違法侵入による知的財産や機密情報の窃盗行為が最後に記載されていたが、今回の報告書では一番初めに掲載され、他の項目は、順に繰り下がって掲載された。

(1)については、サイバーセキュリティー会社などのレポートも参照しながら、中国政府が窃盗行為に対する支援を継続して行っているとした。(2)についても、中国政府は資本規制などを一部緩和(注1)したものの、投資規制を利用して外国企業に技術移転を引き続き迫っているとした。(3)については、中国政府が差別的なライセンス規制を維持しており、米国政府はこれらの規制についてWTOに提訴したことを記載している。

今回の報告書では、(4)についての記述に全体の4割弱が充てられている。特に、3月の調査報告書の発表以降、人工知能、ロボティクス、バイオテクノロジーなどの分野の米国企業に対するベンチャーキャピタル(VC)投資に中国の投資が重点を移しているとして、強い警戒感を示した(注2)。USTRによれば、中国からの対米投資が減少傾向にある中、2018年の中国の対米VC投資は過去最高水準を記録している。

(注1)中国政府は、自動車や航空機、船舶製造、金融業など一部の外資出資比率制限を緩和している(2018年7月2日記事参照)。

(注2)2018年外国投資リスク審査現代化法は、米国企業の支配権を取らない少額出資についても、外国投資委員会(CFIUS)の審査対象に含める法改正を行っている(2018年9月3日付地域・分析レポート参照)。商務省はまた、2018年輸出規制改革法に基づき、規制対象として十分に補足できていなかった新興技術を、輸出規制の対象に含めるための制度構築に向けたパブリックコメントを実施している(2018年11月22日記事参照)。

(鈴木敦)

(米国、中国)

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