米国が追加制裁発表、影響の広がりに警戒感

(ロシア、米国)

欧州ロシアCIS課

2018年08月10日

米国務省は8月8日、対ロシア追加制裁(注1)の発動を発表した。ロシア国内では経済への大きな影響はないとの政府幹部の発言が相次ぐ一方、全面的な制裁が実施された場合の影響を警戒する報道が多数を占めている。

ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は8月9日、「(今回の米国の制裁措置につき)具体的、公式に認識していないため、ロシア側による対抗措置の検討は時期尚早」と述べ、「(ロシアの)金融システムは持ちこたえる」と発言。アントン・シルアノフ第1副首相兼財務相も「ロシア経済、国際収支バランスはここ数年で(原油価格の変動や経済制裁などの)外的要因に対し強くなった」とし、中央銀行とともに市場の安定に必要な手段を取ると述べている。

個別の分野に関しては、エネルギー省のアレクセイ・テクスレル第1副大臣は8月9日、ロシアが参加する天然資源関連事業が制裁の影響を受ける可能性を指摘し、米国が「非競争的手段で市場に影響を及ぼそうとしている」として、ロシア産天然ガスを輸入する欧州の消費者にも影響が出ると発言した(インターネットメディア「レグナム」8月9日)。ロシア産ウランも対象となる可能性があり、ウランを対米輸出する国営原子力会社「ロスアトム」(注2)の業績に影響が出るとの推測もある(「コメルサント」紙8月9日)。

2017年実績をみると、ロシアにとって米国は輸入で3位、輸出では10位の相手国だが、米国にとってロシアは輸入が20位、輸出が35位で、両国間で広範な貿易制限が課せられれば全般的にロシア側の影響が大きい。ロシアが米国から輸入する上位品目(ロシア側統計、表1、2参照)には8月6日時点でロシア側が関税率引き上げによる対抗措置を発動していること(2018年7月9日記事参照)、米国産医薬品について輸入代替が進んでいないことなどもあり、宇宙開発分野で米国がロシアに依存するロケットエンジン「RD180」などを除いて、貿易面で米国への有力な対抗措置は見当たらないのが現状だ。

表1 ロシアの対米主要輸入品目(2017年実績)
表2 ロシアの対米主要輸出品目(2017年実績)

なお、「米国・その他の外国による非友好的行動」に対して対抗措置を取る権限は、プーチン大統領に一任されている(2018年6月7日記事参照)。

(注1)米国務省によると、8月22日(予定)に発効する制裁(輸出禁止)措置の対象は国家安全保障関連製品(輸出ライセンス対象)。発効後90日以内に米国の要求が満たされない場合は広範な貿易制限が追加されるとしている。ロシア政府が、英国で化学もしくは生物兵器を国際法に反し、もしくは自国民に使用したと断定したことに基づく措置。

(注2)実際に輸出を行っているのはロスアトム子会社の「テフスナブエクスポルト」。

(高橋淳)

(ロシア、米国)

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