地域情勢とリスク要因、企業活動への影響や対策を解説-「中東アフリカ安全対策セミナー」を東京で開催-

(中東、アフリカ)

中東アフリカ課

2018年03月14日

ジェトロは2月23日に東京で、中東・アフリカ地域の最新の治安情勢を日本企業向けに解説するセミナー「中東・アフリカ地域情勢とリスク要因~企業活動への影響と対策~」を、経済産業省の新興国補助金事業の一環として主催した。240人の参加者が、海外から招いた2人の専門家らの講演とパネルディスカッションに耳を傾けた。

専門家3人が最新リスク情報や政治動向について講演

ジェトロは2017年度に中東アフリカをテーマにした安全対策セミナーをオーストリア、南アフリカ共和国で開催しており(2017年9月29日記事12月14日記事参照)、3回目の今回は日本での開催となった。

セミナーの冒頭にジェトロの平野克己理事があいさつに立ち、「紛争、リスクは刻々と変化するので、場所、時間を特定して判断する必要がある。情報判断には、どこがいつ危険になるのかという情報収集が重要になる」と述べた。

基調講演は、ジェトロ中東アフリカ課の的場真太郎課長が「中東・アフリカ進出日系企業を取り巻く環境の変化とリスクへの対処」と題して行った。日本企業の中東アフリカに関する不安面としては、政治情勢と社会情勢が多く挙げられる。近年は日本人が巻き込まれた2013年のアルジェリア、2016年のバングラデシュのテロがあり、日本企業の安全対策への認識を高め、本日のセミナーのような日本政府の取り組みにつながっている。本日は、地域情勢の理解の一助となることを目指しており、企業の取るべき対策や政府の役割についても考えていただきたいと述べた。

続く講演の1つ目はジェトロ・ドバイ事務所の田村亮平次長が「中東地域における最新リスク動向とビジネスへの影響」と題して行った。その要旨は以下のとおり。

中東情勢全般では、カタールとの断交問題や、米国によるエルサレムの首都認定など世界に波及する大きな出来事が多くあったが、現地では比較的冷静な見方が多い。とはいえ、中東はこのように情勢が流動化・液状化していると指摘した。勢力バランスの変化が起こり、各国の不満や対立が顕在化している。サウジアラビアはトランプ大統領の後ろ盾もあり、独善的な行動に出ている。イランは影響力を拡大して「シーアの弧」を形成している。湾岸協力会議(GCC)はカタール問題もあり、つながりが弱体化した。トランプ米政権の政策は、対イラン強硬、親イスラエル・サウジだ。

こうした中で、サウジとイスラエルの和解は既定路線化しているようにみえる。シリア・イラクで「イラクとシャームのイスラム国(ISIS)」を駆逐したが、共通の敵がいなくなり、大国や既存勢力が対立するリスクが高まり、過激派は拡散している。ロシアも、中東各国に防衛装備を売るなど、軍事的影響力を拡大。サウジの改革は「上からのアラブの春」といわれるが、本気度が高く、ドラスティックに進行している。ただし2017年の成長率はマイナス0.7%と、外資にとってはネガティブな数値だ。民間主導経済の実現の可否がポイント。中国は「一帯一路」構想で積極的に投資し、中東でも圧倒的な存在感を示す。多くの国で輸入相手国として1位だ。イスラエルはハイテク産業やエコシステムが発達するが、投資などでは中国とのビジネス関係が強まっている。

講演の2つ目は、フランス国際関係研究所(IFRI)研究員のマテュー・ペルラン氏が「サヘル地域における最新リスク情勢」と題して行った。その要旨は以下のとおり。

サヘル(サハラ砂漠南縁部)におけるジハーディスト(イスラム過激派・聖戦主義者)は、所在の把握が困難なことが脅威だ。2013年のマリのテロに際し、フランス軍が介入したことがきっかけで、マリが危機の中心となった。マリにおけるジハーディストの活動範囲が拡大中で、ブルキナファソなど西アフリカ全体に広がる可能性がある。

そもそもは1990年末、主にアルジェリア人で構成された勢力が始まりで、反政府軍によるジハードだった。その後、マリ政府の統制が及ばない地域であるマリ北部に進出、マリ中部まで拡大し、マリ人も構成員に加わるようになった。政府や軍からの疎外感、不満から過激化した。マリ人構成員の増加で、住民に紛れ込むようになり、都市だけでなく農村部にも広まっている。ISの次の勢力になる恐れがあり、今後は自爆テロや欧米人の誘拐被害が増加しないか懸念される。ジハーディストに対抗する自衛民兵組織ができているが、政府による民兵組織のマネージが重要だ。サヘルの今後だが、状況は悲観的だ。ニジェールも野党が弱体化し、反政府組織も多い。政治危機があれば、勢力を拡大する恐れがある。

講演の3つ目は、国際危機グループ(ICG)アフリカ・プログラムダイレクターのコンフォート・エロ氏が「サブサハラアフリカ諸国の最新リスク情勢」と題して行った。その要旨は以下のとおり。

2018年は域内約18カ国で選挙が予定されている。紛争を抱える国もあり、さまざまな問題が予想される。その中でも、カメルーン、ジンバブエ、コンゴ民主共和国(DRC)の選挙は注視が必要だ(注1)。カメルーンには、ボコハラム、中央アフリカとの国境問題、英語圏住民という3つの危機がある。ジンバブエはムガベ氏退陣後の選挙で、与党ジンバブエ・アフリカ民族同盟・愛国戦線(Zanu-PF)が公正な選挙を実施するのか注目される。国際社会や投資家の信頼を取り戻そうと、進展がみられる一方で、軍事費への関心の高まりや野党の混乱といった状況もある。DRCは危機の深刻化が懸念される。カビラ大統領は当初、予定どおりの選挙としていたが、選挙は自ら決めて行うと発言が変化しており、野党や市民は抵抗している。経済も危機的状況で、人道面では世界的にみても厳しく、暴力が広がる危険性をはらむ。国際社会も十分対応できていない。

サヘル地域と「アフリカの角」と呼ばれる東アフリカ地域は、新たな地政学的不透明性を抱える。中国、中東諸国、トルコ、日本など新たな関係国が影響を強めようとしている。湾岸諸国の競合が関係を複雑にしている。エジプトとエチオピアの問題はダムと治水だけでなく、地域の覇権をめぐるもの。スーダン、エチオピアは国内の政治的問題を抱え、対外的な関係にも影響している。エチオピアは最も懸念される状況で、ハイレマリアム首相が辞任し、オロミア州やオガデン地方の抗議活動がここ数年続いている。中央政府が維持できるか注目される。スーダンのバシール大統領は危機を乗り越えようとしているが、エジプトとの問題や経済危機を抱える。

写真 満席となったセミナー会場(ジェトロ撮影)

情報収集の在り方などでパネルディスカッション

講演の後には3人の講師をパネリストに迎え、ジェトロ・ナイロビ事務所の直江敦彦所長がモデレーターを務めて、「中東・アフリカ地域におけるリスクマネジメントの潮流」と題したパネルディスカッションを行った。オープンソースの活用や情報収集の方法についてパネリストの意見を求めたところ、日本大使館の安全対策情報が有用なことや、日本の政府系機関にも専門家がいるので、情報収集には役立つことが紹介された。また、各国のメディアについても、それぞれの立場を理解した上で定点観測すると見えてくることがあるとし、興味のある記事には専門家らから追加情報を入手するとよいだろう、とした。有料にはなるが、セキュリティー会社の活用も紹介されたほか、リスクを踏まえた上で社会に自らが関わることも提案された。今はインターネットなどに情報があふれる時代で、情報源の見極めや評価を繰り返すことが大事だとの助言もあった。

現地から日本への情報発信については、日本の本社にも実際に現地を見てもらうことや、信頼のおける客観的な情報の重要性が指摘された。リスクコンサルタント会社の活用については、最も知りたいことを相手にしっかりと伝え、関心分野に適した会社を探すことが重要との指摘があった。具体的なニーズと目的を共有することが必要で、地域によっては小規模なコンサルタント会社の方が豊富な情報を持っている場合もある、とした。アフリカ諸国で今後予定される選挙(注2)については、南アフリカ共和国、ナイジェリア、DRCの見通しが示され、そのほかにカタール断交、イラン・サウジアラビア・イスラエル関係などについても意見が交わされた。

写真 議論を交わすモデレーターと各パネリスト(ジェトロ撮影)

(注1)カメルーンは10月、ジンバブエは8月、DRCは12月に選挙が行われる見込みだ。

(注2)南アとナイジェリアは2019年5月に予定されている。

(小野充人、小松崎宏之、米倉大輔、山本洋一)

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