ウィーンで「中東・北アフリカ 安全対策セミナー」を開催-中東協力現地会議では「一帯一路」をテーマに講演-

(中東、北アフリカ、中国)

中東アフリカ課、中国北アジア課

2017年09月29日

ジェトロは8月28日にオーストリア・ウィーンで、中東・北アフリカ地域の最新の政治・治安情勢を日本企業向けに解説する「中東・北アフリカ 安全対策セミナー」を、経済産業省の新興国補助金事業の一環として主催した。また、8月26~27日に中東協力センターが主催した「中東協力現地会議」にも参加し、赤星康副理事長が「中国の一帯一路」をテーマに講演を行った。

セミナー:中東・北アフリカ全般とイランの最新情勢を紹介

ジェトロは8月28日にウィーン市内で、「中東・北アフリカ 安全対策セミナー~専門家が語る中東・北アフリカ 最新情勢とビジネスリスク」を主催し、中東・北アフリカ(MENA)地域の進出日系企業の現地駐在員らを対象に82人の参加者を得た。同セミナーは経済産業省の新興国補助金事業として、2014年のイスタンブール、2015年のミュンヘンに続き、海外では3度目の開催となった。

写真 安全対策セミナーには82人が参加(ジェトロ撮影)

講師は、中東経済分析の専門家である国際開発センター エネルギー・環境室の畑中美樹研究顧問と、経済制裁解除・緩和により注目を集めるイランに関してジェトロ・テヘラン事務所の中村志信所長が務めた。セミナーではまず、ジェトロの赤星副理事長が開会あいさつし、人口増などでビジネスニーズが高まり日系企業の進出も増加する中東・北アフリカ地域だが、不安定な政情やテロなどの治安対策が喫緊の課題であるため、本セミナーで最新の情報を提供したいと述べた。

最初の講演では畑中氏が登壇し、「中東・北アフリカ地域の政治・治安情勢とビジネスリスク」と題して、MENA地域全般の幅広い最新トピックについて解説した。直近のスペインでのテロではモロッコ人過激派の関与があること、カタールとサウジアラビアやアラブ首長国連邦などとの断交問題は、双方のメンツの張り合いもあり長期化の恐れがあること、イラクではISIS(イラクとシャームのイスラム国)の勢力は衰退したが、代わりに欧州や東南アジアなど他地域へのテロ拡散の恐れがあること、サウジアラビアやトルコでは権力集中の傾向が強まっていることなどについて説明があった。

 写真 畑中講師の講演(ジェトロ撮影)

続いて、中村所長が「イランの最新政治・治安・経済情勢」と題して講演を行った。2017年5月の大統領選挙では穏健派・経済開放路線のローハニ大統領が再選され、新内閣で若返りが図られていること、6月に国内でISISのテロが発生し、イラン人の関与に国民はショックを受けたが、その後の治安は安定していること、経済は制裁解除・緩和後は回復傾向で、2016年度の輸出入も増加しており、米国の独自制裁はいまだに残るもののビジネスチャンスは拡大していること、について説明があった。

質疑応答では、畑中講師が、トルコのソマリアへの軍事基地開設についてはサウジアラビアへの牽引の意図がうかがわれること、イエメン紛争は引き続き長期化の見通しだが、国連の仲介の動きが活発化しつつあること、イスラエルのクルド支持の背景には、パレスチナ問題をかすませようという意図が想像されること、などと解説した。中村講師は、イランの革命防衛隊が関与する取引先のデューデリジェンスの進め方について、イラン側でも米国制裁の状況は承知しているので、真摯(しんし)に日本側の状況を伝えて理解を得るべきだと説明した。

写真 質疑応答の様子(ジェトロ撮影)

中東協力現地会議:中国の主要プロジェクトなどを解説

安全対策セミナーに先立つ8月26~27日には、中東協力センターが毎年海外で開催する中東協力現地会議が同じくウィーンで開催された。同会議は、MENA地域でビジネスを行う日本企業の現地駐在員が多数参加し、同地域の最新情勢に関する講演や情報交換を行うものだが、2017年は「内外の要因で流動化する中東と日本の対応」とのテーマで、「中国の一帯一路構想と共に変わる国際競争環境と日本の対応」というセッションが設けられ、ジェトロの赤星副理事長が「中国の一帯一路構想とその主要プロジェクト」と題した講演を行った。

写真 赤星ジェトロ副理事長が中東協力現地会議で講演(ジェトロ撮影)

赤星副理事長は、「一帯一路」構想について、2013年に提起されて名称が定着したもので、中国の過去の周辺外交や対外投資を取り込みつつ、インフラ建設やファイナンスという新たなツールを加えたものだと解説。陸と海の5大方向、6つの経済回廊からなり、多様な協力分野が想定されているとし、各回廊における主要なプロジェクトを紹介した。同構想から示唆されるものとして、中国の海洋政策(港湾運営など)、資源の安定調達、中国主導経済圏の構築、の3点を挙げ、外縁はなおも拡大中だが、沿線国との思惑の違いなどが課題とした。講演の後は、同セッションの報告者6人による討論も設けられ、参加者は、一帯一路構想の内容や、日本企業および中東地域に与える影響について理解を深めた。

(小松崎宏之、米倉大輔、島田英樹)

(中東、北アフリカ、中国)

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