スリランカ投資セミナーを開催-シリセナ大統領も列席-

(スリランカ)

アジア大洋州課

2018年03月30日

ジェトロは3月13日、「日本・スリランカ・投資フォーラム」を東京都内で開催した。本セミナーはシリセナ大統領列席のもと行われ、サマラウィクラマ開発戦略・国際貿易相およびラトナヤカ外国投資委員会(BOI)長官がスリランカ投資の利点を示しながら、日本企業に投資を呼びかけた。進出日系企業のビジネス事例では、輸出志向型製造・国内市場開拓モデルが紹介された。セミナーには、日本企業や両国政府機関関係者約320人が参加した。

35億人の市場へのゲートウェイ

ジェトロの石毛博行理事長の開会挨拶、大串正樹経済産業大臣政務官の来賓挨拶に続いて、マリク・サマラウィクラマ開発戦略・国際貿易相は基調講演で、安定した経済成長・財政健全化に対する政策成果をアピールした。経済の発展が援助機関等の支援を受けた公共投資主導から、民間による多方面での海外直接投資主導型へ移行しているとし、「経済の新たな段階に移った」と述べた。ビジネス環境の改善に向けた取り組みとして、事業登録や土地・不動産登記に係る日数の短縮を2018年中旬までに実現すると発言。加えて、4月に施行予定の内国歳入法により、透明性の高い所得税と、新たな投資優遇制度が導入されると述べた。

同相は、1月に締結したシンガポール・スリランカFTA(2018年3月1日記事参照)について、「ASEANとの市場統合に向けた第1歩」とし、インド・パキスタンとのFTA(締結済み)と、中国、タイ、バングラデシュ、マレーシア各国とのFTA(交渉中)、欧州による貿易特恵一般制度(GSP+)を総合すれば、「35億人の市場に有利な条件でアクセスできる」と、スリランカへの進出メリットを強調した。同相はさらに、「将来的に、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に加わることも視野に入れている」と、経済連携を推進する姿勢を見せた。

スリランカに投資すべき「7つの魅力」

続いて講演したスリランカ外国投資委員会(BOI)のドゥミンドラ・ラトナヤカ長官は、同国の投資環境上の特徴として、(1)社会・経済の高い進展度、(2)質の高い人材、(3)整備されたハードインフラ、(4)地理的優位性、(5)輸出志向型の海外直接投資のための環境整備、(6)良好なビジネス環境、(7)投資インセンティブの「7つの魅力」をあげた。

スリランカは南西アジア随一の経済・社会発展レベルを誇る。2017年の一人当たりGDPは3,906米ドル(IMF推計)、貧困率(注)は2012年で1.9%と低く、識字率は92.6%(UNDP推計)と高い。ラトヤナカ長官は「英語を話し、しっかり教育・訓練を受けている」と、人材の質の高さに自信をのぞかせた。ハードインフラも他の南西アジア諸国と比較して整っている。例えば、インドの主要港が水深10m前後なのに比べて、同国のコロンボ港の水深は15~18m、トリンコマリー港は23mと大型船の入港が可能だ。海運情報の提供会社であるアルファライナーのベスト・ポート・ランキングによれば、コロンボ港は23位(2016年)に位置する。同港の貨物取扱量の約75%が積み替え貨物で、このことは南西アジアにおけるスリランカの物流拠点としての可能性を表しているという。

同長官は、導入予定の新投資優遇制度について、法人税の14%への引き下げ、輸出製品に使用される資材や原材料などの関税、VTAの減免のほか、工場・機械設備といった固定資産への投資について税額控除(割増償却)が適用できると発言。具体的には、投資額が1億ドル以下であれば100%、1億ドル以上であれば150%、北部の州であれば200%の割増償却が得られるようになる(2017年12月6日記事参照)。本制度が施行されれば、スリランカへの投資呼び込みにとって追い風になるだろう。

輸出志向型製造・国内市場開拓に注目

2009年の内戦終結後、スリランカは安定的な成長が継続し、有望な消費市場を形成しつつある。さらに、インド洋の要衝に位置する地理的優位性から、インド、ASEAN、中東・アフリカ、欧州など世界市場を結ぶ物流拠点としても注目が集まっている。

進出日系企業の事例紹介として、高級陶磁器メーカーのノリタケカンパニーリミテド(本社:愛知県名古屋市)取締役専務執行役員の加藤幸三氏は、「人材確保と輸出力強化」を目的として、1972年にスリランカに進出したと述べた。その後、生産品目は一層の多様化を進めながら、人材の質や定着率などの問題から海外の生産拠点をスリランカ1カ所に集約させていった経緯を紹介した。現在スリランカ工場は「ノリタケのマザー工場」と位置付けられ、食器分野の売り上げの半分をスリランカ製が占めているという。

また、ジェトロ・コロンボ事務所の小濱和彦所長は、進出日系企業の事例を類型化すると、ノリタケに代表される「輸出志向型製造」と「国内市場開拓型」の2つのタイプの企業に大別できると説明。前者の例として、自動車部品の製造会社の事例をあげた。同社の供給先は世界各地に亘るが、一方でスリランカには取引先は存在しない。各供給先の中間地点という立地を活かしてスリランカのみに製造拠点を置いているという。また後者では、主にインド、中国からの同国への観光客が増加していることに触れ、「スリランカで内販をする際の主要ターゲットは富裕層観光客」と、人口規模を超えた消費市場としての可能性を提示した。

有望な消費市場と物流拠点として注目が集まるスリランカ。今後の動向に注目だ。

写真 セミナー会場に入場されるシリセナ大統領(ジェトロ撮影)
写真 基調講演するマリク・サマラウィクラマ開発戦略・国際貿易相(ジェトロ撮影)

(注)世界銀行が定めた貧困線(1日1.90ドル)以下で生活する人の割合。

(渡邉敬士)

(スリランカ)

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