包括的な自由貿易協定に調印、輸出や投資の拡大に期待-SLSFTAの基本的な内容と両国内の反応(1)-

(スリランカ、シンガポール)

シンガポール、コロンボ発

2018年03月01日

スリランカとシンガポールは1月23日、包括的な2国間自由貿易協定(SLSFTA)に調印した。スリランカにとっては初めての包括的なFTAであり、経済の自由化および海外からの投資誘致を積極的に促進するスリランカ現政権の取り組みを象徴する出来事となった。シンガポールは、スリランカの輸入関税が段階的に削減される効果だけでなく、サービス分野のアクセス改善、「仲裁ハブ」としての地位向上などを見込む。2回に分けて報告する前編は、同協定の基本的な内容について。

シンガポールの関税削減効果は1,000万Sドル

SLSFTAの協定文は現時点で両政府から公表されていないが、シンガポールでは貿易産業省(MTI)から、スリランカでは開発戦略・国際貿易省から協定概要が発表されている(注1)。これらの資料によると、本協定は、物品貿易(関税削減)に加え、サービス貿易、電子商取引(EC)、通信、投資、知的財産、政府調達などに関連する項目を含む包括的な内容となっている。本協定はスリランカにとっては初めての包括的FTAであり、2018年中の締結に向けて協議中の中国とのFTAや、2000年に発効したインドとのFTAの範囲拡大よりも、幅広い分野を対象としている(「スリランカ・デイリーFT」紙1月24日)。

注目される物品貿易分野では、シンガポールでは輸入に関する一般関税はほぼないため(注2)、スリランカでの輸入にかかる関税削減が焦点だ。スリランカ政府の発表資料によると、本協定ではスリランカの全関税品目数(タリフライン)7,042品目のうち80%が15年間で関税撤廃される。まず、全品目の50%が発効後に即時撤廃され、その後の1~6年目までに15%、7年目から12年目までの間にさらに15%が段階的に撤廃される。鉄・プラスチック・電気製品・化粧品を含む50品目(全品目の0.7%に相当)については、11年目から15年目までに撤廃される。関税免除を受けるための原産地規則については、一般原則として「付加価値基準35%以上」または「関税番号変更基準(CTH:HSコード4桁レベルでの変更)」が適用され、品目別規則(PSR)が適用される品目もある。当該国のみの原産性で判断され、ASEANとパートナー国によるFTAにみられるような関係国の原産品との累積による原産性は認められない。

一方、関税撤廃対象とならなかった全品目の20%に相当する品目は、ネガティブリストに分類された。この中には、石油および関連商品、たばこおよび関連商品、アルコールおよびスピリッツ(蒸留酒)といった国家収入に関わるものや、国内市場への影響が強く懸念されるものが掲載されている。

シンガポール政府は関税削減効果として、同国の輸出業者は年間1,000万シンガポール・ドル(約8億1,000万円、Sドル、1Sドル=約81円)の節減が見込めるとしている。また現在、スリランカでの輸入に当たっては品目によって60~80%の関税が課されているため、シンガポール産業界も本FTAによる関税削減への期待を示している(「シンガポール・ストレーツタイムズ」紙1月23日)。

物品貿易以外にもサービスや投資の活発化を期待

シンガポール政府の発表資料では物品貿易以外に、以下の政府調達、サービス貿易、EC、投資の4つの分野に関して期待が示されている。

  • 政府調達分野:SLSFTAはスリランカにとって同分野を含む初の協定となる。この協定により、シンガポール企業は同分野のプロジェクトの入札に参加が可能となる。
  • サービス貿易分野:両国のサービス市場への参入規制の緩和に合意。特に、シンガポール企業にとって関心の高い専門サービスや環境、建設、観光・旅行関連サービスなどが含まれているという。
  • EC分野:「電子的手段による情報の越境移動、データフロー」を含む比較的新しい規律が含まれているとし、ECやデジタルサービスに対する需要が増加する中、両国企業にとって恩恵があるとしている。
  • 投資分野:投資家の国籍に基づく差別的待遇や投資家財産の収用に対する保護が含まれるだけでなく、シンガポール国際仲裁センターが紛争解決の場として明記される。このような明記がされるのはシンガポールが締結しているFTAの中でも初めてで、同国が目指す仲裁ハブとしての地位向上につながることに期待が示されている。

一方、スリランカ政府は、今回のSLSFTA締結によるサービスや製造分野での投資増加を期待している。投資誘致の促進のために、同FTA締結に付随して、税関手続きの簡素化や政府調達の透明化を進めていく構えだ。また、ASEAN域内国との初の調印となったこのFTAがASEAN経済域との結び付きを強化することに貢献し、長期的には東アジア地域包括的経済連携(RCEP)への参画につながる契機となることを期待している(「スリランカ・デイリーミラー」紙1月24日)。

なお、スリランカの発表資料によると、FTAの発効は両国議会が承認文書を取り交わしてから2カ月後の1日付とされており、国内での批准手続きには4週間程度を見込んでいる。

(注1)シンガポール貿易産業省の2018年1月23日付プレスリリースおよびスリランカ開発戦略・国際貿易省の協定概要PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。本報告においては、原則としてこれらの政府発表資料を参考としているが、必要に応じて両国の報道資料などで補足する。

(注2)シンガポールの一般関税はビールなど6品目のみが課税対象。ただし通常、FTAを締結している国に対しては特恵関税が適用され、税率は原則ゼロとなる(今回のSLSFTAに関して、現時点でシンガポール政府からこの点に関する発表はない)。ジェトロ・シンガポール関税制度参照。

(小島英太郎、山本春奈)

(スリランカ、シンガポール)

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