ブレグジットを念頭に、EU機構と加盟国の攻防が表面化-EU非公式首脳会議で予算など協議-
(EU、英国)
ブリュッセル発
2018年02月27日
EUは2月23日、非公式首脳会議(英国を除く27加盟国)をブリュッセルで開催し、EUの組織・意思決定の効率化のための機構改革案や予算などについて協議した。欧州議会の議員定数を現行の751から705に削減することで合意したが、今後の英国のEU離脱(ブレグジット)をにらんで、次期欧州委員会委員長の選出や2020年以降の予算編成などをめぐり、EU機構とEU加盟各国との攻防も表面化した。
機構改革案や予算めぐり、EU機構とEU加盟各国の綱引き状態
欧州理事会(EU首脳会議)のドナルド・トゥスク常任議長は2月23日、EU非公式首脳会議を終えて記者会見に臨み、EUを取り巻く地政学的な情勢変化やブレグジット問題などを踏まえて協議したと語り、協議結果を報告した。
まず、EUの機構改革(2018年2月16日記事参照)については、ブレグジットに伴い2019年以降の欧州議会議員定数を現行の751から705に削減(2018年1月26日記事参照)することで合意。英国の離脱を反映した議員定数についてEU加盟国首脳の支持を得たとしている。しかし、次期欧州委員会委員長の選出については、これまでの「欧州議会選挙で最大勢力となった会派の委員長候補者を自動的に委員長に指名する慣行」をめぐり、現状維持を求める欧州議会などEU機構と、委員長選出に対する関与を狙う加盟各国で、見解に隔たりがあることをトゥスク常任議長は示唆した。同氏は「このプロセスにおいて(EU加盟各国の協議を経ない)自動決定はない。欧州委員会委員長の候補者指名では、欧州議会選挙の結果も考慮するが、EU加盟国との協議も適切に行う」との考えを示した。
また、「欧州委員会委員長」と「欧州理事会常任議長」のトップ2ポストを実質的に統合する、ジャン=クロード・ユンケル委員長の提案(2018年2月16日記事参照)について、トゥスク常任議長は、EU加盟各国の発言権を大幅に弱める懸念があるとの理由で、当面は協議しない考えを示した。
トゥスク常任議長は「英国の理解を待つことはない」との姿勢
またトゥスク常任議長は、EU・英国の将来関係についてのガイドライン案を3月に開催予定の欧州理事会で、加盟各国首脳に提案する方針を固めたことを明らかにした。EUとしては、英国の理解を得た上で、ガイドライン案を採択することが望ましいとの考えはあるものの、英国の理解を待つつもりはないとも述べた。トゥスク常任議長は3月1日に英国を訪問し、テレーザ・メイ首相との会談で英国政府の方針を確認するとしている。
なおブレグジット問題については、記者会見後の質疑応答で、英国政府の最近の動きについての認識を問われ、トゥスク常任議長は「英国政府がより具体的な姿勢を打ち出すことは良いことだ。しかし、報道が正しいとしても、現在の英国の姿勢は完全な幻想に基づくものだ」と指摘。(英国に都合の良いような)「アラカルト方式」でのEU単一市場アクセスを認める考えはないことをあらためて強調した。
ブレグジットに伴う厳しい財政事情にも言及
このほか、2020年以降の予算編成については、「不法移民対策」「安全保障・防衛」「(EU加盟国の人材養成・交流計画)エラスムス・プラス」などへの支出拡大について合意したとしている。また、EU加盟国首脳からは「(EU域内の経済・社会・地域的な格差是正を目的とする)結束政策(基金)」「共通農業政策(CAP)」「研究開発・イノベーション投資」「汎(はん)欧州社会基盤整備プロジェクト」などの予算拡充に対する要望が多かったとした一方、トゥスク常任議長は「歳出(何に優先的に充当できるか)は予算規模を念頭に置く必要がある。ブレグジットに伴う歳入ギャップ(将来的な英国の予算拠出枠の削減)についても対応しなければならない」と指摘し、EUの厳しい財政事情についてもEU加盟国首脳の配慮を求めた。
(前田篤穂)
(EU、英国)
ビジネス短信 2716dd0fdcbc5871
ご質問・お問い合わせ
ビジネス短信の詳細検索等のご利用について
メンバーズ・サービスデスク(会員サービス班)
E-mail:jmember@jetro.go.jp