中国アント・フィナンシャルによるマネーグラムの買収が破談-CFIUSが買収を認めない決定下す-

(米国、中国)

ニューヨーク発

2018年01月24日

米資金決済大手マネーグラムは1月2日、外国投資委員会(CFIUS)が買収を認めない決定を下したことにより、中国アリババグループの関連企業アント・フィナンシャルによる同社買収が破談したと発表した。ロイター通信は、マネーグラムが所有する米国人の個人情報をアント・フィナンシャルが入手することに対する懸念が払拭(ふっしょく)できなかったことが不認可の理由とする関係者の声を報じている。

CFIUSの決定を受け、買収を取りやめ

マネーグラム(本社:テキサス州ダラス)は1月2日、CFIUSが買収を認めない決定を下したことにより、同社に対するアント・フィナンシャルの買収が破談に終わったと発表した。

マネーグラムは200以上の国・地域にまたがる約35万拠点の取引ネットワークを持ち、これらの拠点を活用することで、容易かつ迅速に国際送金を行うことができる資金送金サービスを提供している。アント・フィナンシャルはアリババグループの金融子会社で、中国最大のオンライン決済システム「アリペイ(Alipay)」などを運営している。

両社は2017年1月26日に、マネーグラムがアント・フィナンシャルの買収を受け入れることを決定したと発表していた。マネーグラムはアント・フィナンシャルの顧客ネットワークを活用し、アジア太平洋地域での事業拡大を目指すとしていた。

マネーグラムのアレックス・ホルムス最高経営責任者(CEO)は「CFIUSが買収を認可しないことが明らかになった」と破談理由を語った。CFIUSは、「1950年国防産業法」721条PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)で法制化されている政権内の組織(注1)で、外国企業による米企業の買収案件が米国の安全保障の脅威となり得るかについて審査している。大統領には、CFIUSの勧告に基づき、外国企業の買収を差し止める権限が与えられている。マネーグラムとアント・フィナンシャルの両社はCFIUSによる決定を受け、トランプ大統領の決定を待つことなく、自主的に買収を取りやめた。

中国政府への個人情報の流出を懸念

CFIUSが審査案件に関する情報を公表することは法制度上認められていないため、不認可の正式な決定理由は不明となっているが、ロイター通信(2018年1月2日)は関係者の話として、米国人を特定できる個人情報の扱いに対する懸念が払拭できなかったことが不認可の理由と報じた。ロイターは、CFIUSが近年、サイバーセキュリティーや個人情報の保全に重点をおいており、金融サービスなどこれまで安全保障と関連付けられてこなかった産業分野において投資を差し止める意向を強めているとの分析を示している。

CFIUS強化の必要性を訴えているロバート・ピッテンガー下院議員(共和党、ノースカロライナ州、注2)は「中国政府はアント・フィナンシャルの株式を相当量保有しており、同社の会長は共産党指導部と日常的に面談している」と述べ、同社のマネーグラム買収により中国政府が米国の安全保障上重要なデータにアクセスできるようになる、との懸念を示している。同議員は「海外の反体制派勢力からの資金送金の情報や、米国軍人や米国政府職員のデータを操作する能力など、センシティブな財務情報に対する直接的なアクセスを中国政府に許せば、米国経済に対する信頼性が失墜する可能性がある」と、CFIUSの決定を歓迎する声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを出した。

マネーグラムのホルムスCEOは「アント・フィナンシャルとの合併を発表した1年前から、地政学的な環境が大きく変化してしまった」と述べている。

CFIUSは、中国政府が関与する投資ファンドのキャニオン・ブリッジ・ファンド(CBFI)などによる米半導体企業ラティスセミコンダクターの買収についても差し止め勧告を出しており、トランプ大統領は2017年9月13日に同買収を阻止する大統領令外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに署名している(2017年9月26日記事参照)。

(注1)審査メンバー(オブザーバーや投票権のないメンバーは除く)は以下の省庁部局の代表者で構成される:財務省、司法省、国土安全保障省、商務省、国防総省、国務省、エネルギー省、通商代表部、科学技術政策局。委員長は財務長官が務める。

(注2)ピッテンガー議員は、CFIUSの権限強化を求める「2017年外国投資リスク審査現代化法」を議会に提出している。同法案の内容については2018年1月5日記事参照

(鈴木敦)

(米国、中国)

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