外国投資委員会の権限強化に向けた議会審議始まる-少額出資やジョイントベンチャーも審査対象に-
(米国)
ニューヨーク発
2018年01月05日
下院金融サービス委員会傘下の金融政策・貿易小委員会は12月14日、外資による米国企業の買収案件を安全保障の観点から審査する、外国投資委員会(CFIUS)の権限強化に関する公聴会を開催した。両院に提出されている「2017年外国投資リスク審査現代化法」を対象とした初の議会審議となった。同法案は、少額出資やジョイントベンチャー事業なども審査対象に含むよう、CFIUSの審査権限を明示的に拡大する内容になっている。法案は超党派の議員が支持しており、トランプ政権の方針も議会と一致していることから、法案成立の可能性が高いとみられている。
中国企業の対米投資に警戒感が高まる
下院の金融政策・貿易小委員会は12月14日、CFIUSの権限強化に関する公聴会を開催した。CFIUSは米国政府の省庁間委員会(注1)で、外国企業による米企業の買収案件が米国の安全保障の脅威となり得るかを審査する。大統領には、CFIUSの勧告に基づいて外国企業の買収を差し止める権限が与えられている。
今回の公聴会では、上院多数党院内幹事のジョン・コーニン議員(共和党、テキサス州)および下院のロバート・ピッテンガー議員(共和党、ノースカロライナ州)が提出したCFIUSの権限強化法「2017年外国投資リスク審査現代化法(Foreign Investment Risk Review Modernization Act of 2017, S.2098)(FIRRMA)」に対する有識者の意見表明が行われた。
FIRRMAは、CFIUSの審査の対象を、米国企業の経営を握ることになる、現行の外資による買収・合併案件に加えて、少額出資やジョイントベンチャー、軍事施設周辺の不動産案件の買収・賃貸なども明示的に含むように拡大することを軸にしている。現行制度でも審査基準に出資比率などは定められておらず運用面での柔軟性は高いが、CFIUSの監視能力を強化するためには審査権限を明示的に拡大する必要があると指摘されていた。
議会や米国政府内部には、中国企業などによる米国企業の買収や投資増加(注2)を背景に、中国政府とつながりの深い中国企業が、軍事転用可能な米国の基幹技術にアクセスしているとの懸念が近年高まっており、CFIUSのさらなる権限強化が必要との声が増えている。コーニン議員は「中国のような潜在敵国は、CFIUSの審査プロセスの隙間を利用して米国企業を買収または投資することで、軍事分野におけるわれわれの技術的優位を低下させてきた」と法案の必要性を説明した。
ソフトウエア大手オラクルのケネス・グラックCEO室上級副社長は、コーニン議員宛ての書簡で「CFIUSの現行の審査プロセスは、少額投資やジョイントベンチャーによって最先端技術を手に入れようとする新たな戦略を、十分に考慮に入れていない」としてFIRRMAを支持した。
なお、CFIUSは特定の国を対象とした制度ではないが、これまで米国大統領が差し止めた4案件全てが中国企業による買収案件になっている。トランプ大統領も9月13日に中国政府の関連企業が関わった米半導体企業ラティスセミコンダクターの買収を差し止めている(2017年9月26日記事参照)。CFIUSの年次報告書(2017年9月公表)によると、最新データである2015年の審査件数をみても中国が29件とトップで、4年連続で最多だった。
スタートアップ企業などへの投資にも懸念
FIRRMAはまた、CFIUSの審査対象となる「基幹技術(critical technologies)」の定義を広げ、将来的に米国の技術優位を形作る「新技術(emerging technologies)」も含めるとしている。
「ニューヨーク・タイムズ」紙(電子版3月22日)は、軍事転用可能な技術を開発する米国のスタートアップ企業が、資金ニーズから中国からの投資を受け入れた事例を紹介している。それによると、国防省が3月に作成した政権幹部向けの報告書(非公開)においても、「軍事力や経済力の拡張を目的に、中国政府とのつながりが深い中国企業に対し、人工知能やロボット分野などの基幹技術を持つ米国のスタートアップ企業への投資を促している」「これら基幹技術となり得る技術を保護するための米国政府の規制は十分ではない」との認識が示されている。
米国企業の海外事業も審査対象に
FIRRMAはまた、米国内への投資に加えて、米国企業が外国企業と海外で行うジョイントベンチャーや技術開発提携などもCFIUSの審査対象としている。ただしこの点については、商務省が管轄する現行の技術輸出規制などとも抵触することから、CFIUSにおける新たな審査は必要ないとの意見が有識者からも聞かれる。前述の公聴会において、ロバート・キミット前財務副長官は、CFIUSは「他の法律の管轄を冒さない範囲で米国を守る権限を大統領に与えている」として、「技術流出を招く海外でのジョイントベンチャーがある場合には、既存の輸出管理規則(EAR)や国際武器取引規則(ITAR)でまず対応すべきだ」と述べている。IBMもまた、「この法案は輸出規制機関を超えた存在にCFIUSをつくり変えることで、米国企業の海外ビジネスを妨げる」と批判している(通商専門誌「インサイドUSトレード」11月17日)。
なお、トランプ政権は中国に対して、1974年通商法301条に基づく調査を発動している(2017年8月24日記事参照)。通商代表部(USTR)が調査の対象として示した中国政府の行為には「米国企業の技術や知的財産を中国企業に移転することを目的に、米国企業の中国事業を規制・干渉する中国政府の行為」などが含まれている。
一方、FIRRMAには、同盟国などの企業が行う一部取引を審査対象から除外する規定なども盛り込まれている。
超党派議員の支持で法案成立の可能性は高い
FIRRMAはコーニン議員のほか、民主党議員4人を含む10人の議員が共同提出者に名を連ねる超党派の法案として上院に提出された。コーニン議員に連携して、下院でピッテンガー議員が提出した同様の法案(H.R.4311)の共同提案者(全19人)にも、3人の民主党議員が含まれている。
トランプ政権は12月18日に発表した「安全保障戦略」において、CFIUSの権限強化に議会と協力して取り組むと宣言した。CFIUSの委員長を務めるスティーブ・ムニューシン財務長官と、委員を務めるジェフ・セッションズ司法長官も既にFIRRMAに対する支持を表明している。通商分野に詳しい法律事務所ホワイト&ケースは、超党派の議員とトランプ政権がともにこの法案内容を支持していることから、「実際の法律として成立する可能性は高い」との見方を示している。
(注1)審査メンバー(オブザーバーや投票権のないメンバーは除く)は以下の省庁部局の代表者で構成される:財務省、司法省、国土安全保障省、商務省、国防総省、国務省、エネルギー省、通商代表部、科学技術政策局。委員長は財務長官が務める。
(注2)米民間調査会社ロディウムグループによると、2016年の中国企業の対米投資額(引き揚げを除く)は462億ドルに達し、前年の3倍以上に拡大した。投資総額の95.7%を米国企業に対するM&Aが占めている。また、トランプ大統領の訪中(11月8~9日)に合わせて行われたビジネスミッションなどを通じて、米中間で合計2,500億ドルを超える商談が成立しており、これらの商談の中には中国企業による米国での多額の投資プロジェクトが多く含まれている。発表された具体的な商談案件については商務省資料参照。
(鈴木敦)
(米国)
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