トランプ政権、中国企業による米半導体企業買収を阻止

(米国、中国)

ニューヨーク発

2017年09月26日

トランプ大統領は9月13日、外国投資委員会(CFIUS)の勧告に基づき、米半導体企業「ラティスセミコンダクター」に対する投資ファンド「キャニオン・ブリッジ・ファンド(CBFI)」などによる買収を差し止める大統領令に署名した。CBFIには中国政府関連ファンドが出資しており、同買収案件は米国の安全保障に脅威となり得ると判断した。外国企業の投資差し止めはトランプ政権下で初めて。議会でも、中国企業による米国企業の買収に警戒感が強い。

CFIUSの法制化後4件目、トランプ政権で初の差し止め

トランプ大統領は9月13日、投資ファンド「キャニオン・ブリッジ・ファンド」(CBFI)と関連企業による米半導体企業「ラティスセミコンダクター」(以下、ラティス)の買収を差し止める大統領令外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに署名した。CBFIには中国政府関連ファンドCVCF(China Venture Capital Fund)の子会社が出資しており、外国投資委員会(CFIUS)がこの買収案件を審査していた。

スティーブ・ムニューシン財務長官は、今回の買収が米国の安全保障の脅威となり得る点として、(1)外国の買収者に知的財産が流出する可能性、(2)この取引に対する中国政府の支援、(3)米国政府にとっての半導体サプライチェーンの保全の重要性、(4)米国政府によるラティス製品の使用などを挙げた。

ラティスはオレゴン州に本社を置く株式公開企業で、スマートフォンなどモバイル端末、自動車、医療、通信などの半導体の設計に加え、軍事用のデバイスなども手掛けている。同社のダリン・ビラーベック代表取締役は、大統領令を受けてCBFIによる買収の受け入れを断念すると発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

CFIUSは、「1950年国防産業法」721条PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)で法制化されている米政府の省庁間委員会(注1)で、外国企業による米企業の買収案件が米国の安全保障の脅威となり得るかを審査しており、大統領には、CFIUSの勧告に基づき、外国企業の買収を差し止める権限が与えられている。外国企業による米国企業の買収を差し止めたのは、トランプ政権下で初めてであり、CFIUSの権限が強化された1988年以降で4件目となる。これまでの差し止め事例をみると、今回を含む全ての案件が中国企業に対するものとなっており、半導体企業の買収差し止めが、2016年のアイクストロン、ラティスと続いたことになる(表1参照)。

表1 CFIUSの勧告に基づく過去の投資差し止め事例

中国企業による買収に議会も警戒

CFIUSの年次報告書(2016年2月発行)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によると、データが公開されている最新の2014年において、審査件数は中国が24件と最多だった(表2参照)。2012年(23件)と2013年(21件)も中国が最大の審査対象国となっている(注2)。

 表2 CFIUSによる審査件数上位5カ国

議会では、中国企業の米国企業買収に対する警戒感が強い。ロバート・ピッテンガ―下院議員(共和党、ノースカロライナ州)は2016年12月6日、超党派の21議員と共に、ラティスの買収差し止めを求める書簡を財務長官宛てに発出PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)している。同議員は9月14日、「米国にとって極めて重要なインフラに安全な商業取引であることを装って入り込もうとする中国政府の戦略的で組織的な取り組みに対して、われわれは意識的でなくてはならない」と述べ、ラティスの買収差し止めを支持外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。同議員は、上院多数党院内幹事のジョン・コーニン議員(共和党、テキサス州)と共に、CFIUSの機能強化に向けた法案提出に取り組んでいる。なお、上院銀行住宅都市委員会は9月14日に、CFIUSの機能強化を議論する公聴会を開催している。

オバマ政権(当時)は1月6日、半導体産業における米国の長期的なリーダーシップの維持に向けて」と題するレポートを発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますしている。このレポートは、半導体やほかのハイテクセクターの買収を促す中国の対外投資政策に対して、米国は強い対抗策を打ち出さなければならないと提言している。

なお、トランプ政権は8月18日に中国の技術移転策や知的財産権の侵害に関して、1974年通商法301条に基づく調査を発動している(2017年8月24日記事参照)。通商代表部(USTR)が調査の対象として示した中国政府の行為には「中国の産業政策に合致した先端技術や知的財産権を取得することを目的に、中国企業による米国企業の組織的買収や投資に対して中国政府が行う指示や不当な支援」が含まれている。

(注1)審査メンバー(オブザーバーや投票権のないメンバーは除く)は以下の省庁部局の代表者で構成される:財務省、司法省、国土安全保障省、商務省、国防総省、国務省、エネルギー省、通商代表部、科学技術政策局。委員長は財務長官が務める。

(注2)2011年の審査件数では、中国(10件)は英国(25件)とフランス(14件)に次いで3番目。

(鈴木敦)

(米国、中国)

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