EUとして「通商協定」と「投資協定」の分離交渉に理解求める-欧州委のマルムストロム委員がスペイン側に見解示す-

(EU、スペイン)

ブリュッセル発

2018年01月24日

欧州委員会のセシリア・マルムストロム委員(通商担当)は1月9日、EUが交渉している自由貿易協定(FTA)から「投資保護条項」を分離する動きについて、スペイン経済・産業・競争力省が懸念を表明したのに対して、欧州委としての見解を明らかにする書簡を公表した。マルムストロム委員は交渉戦略の便宜上、通商協定から「投資保護条項」を分離することに理解を求めたが、最終的には別個に投資保護協定を結ぶことで、EUの投資家の権益を守る考えを示した。

最終的には「投資保護協定」でEUの投資家を守る考え

欧州委のマルムストロム委員は1月9日、EUが諸外国と締結するFTAをはじめとする通商協定から「投資保護条項」を分離して交渉を進める動き(2017年12月11日記事参照)についての欧州委としての見解を明らかにする書簡を公表(1月10日付で欧州委が公開)した。これは、スペイン経済・産業・競争力省のマリア・ルイサ・ポンセラ・ガルシア副大臣(商務担当)が2017年12月4日付でマルムストロム委員宛てに提出した、通商協定から「投資保護条項」を分離することについての懸念を表明する意見書に対する回答として、同委員が明らかにしたものだ。マルムストロム委員は、通商協定と投資保護協定の交渉を並行的に進めることを認めたが、独立型の投資保護協定を世界の主要な相手国と結ぶことで、最終的にはEUの投資家の利益を損なうことがないよう配慮しているとの認識を示した。

分離交渉はEU側に不利と主張するスペイン

スペイン経済・産業・競争力省のガルシア副大臣は意見書で、「(貿易自由化を中心とする)通商協定」と「(投資保護条項を含む)投資協定」はこれまでの慣行として並行して交渉を進めるべきで、特に主要な相手国とはこの慣行を徹底すべきと主張している。また、「通商協定」と「投資協定」の交渉を一体的に進めることで、包括的かつ互恵的な妥協点を模索するためにも有利になるというのがスペイン側の認識だ。逆に、「通商協定」と「投資協定」を分離して交渉する場合、EUの投資戦略上の成果を逸失するリスクがあるとガルシア副大臣は指摘し、今後の交渉でEU側の優位性を損なわないよう注意喚起した。

このほか、ガルシア副大臣は「EUシンガポールFTA」について、EUの専権事項だけでなく、加盟国と権限を共有すべき条項も含まれる「混合協定」と判断したEU司法裁判所(CJEU)の意見書(2017年5月17日記事参照)にも言及、EUの共通通商政策の在り方をただした。

「通商協定」と「投資協定」を同時並行で進められない現実にも言及

これに対して、マルムストロム委員は「投資保護協定などを通じて、EUの投資家が(EU域外においても)公正な競争条件を確保することがEUの通商政策上、最も重要な課題の1つだ」と述べた。また、世界の主要な相手国との間で、EUとして、投資保護協定の交渉を進めていること、「多国間投資裁判所(Multilateral Investment Court)」の創設(2017年10月3日記事参照)を最終的に想定していることにも触れ、「通商協定」だけでなく、「投資協定」についても戦略的に取り組む姿勢を明らかにした。

ただ、今後の世界経済においてEUが競争力を保つためには「通商協定」と「投資協定」の批准・発効が不可欠で、正当性とともに効率性にも配慮する必要があると指摘。「通商協定」と「投資協定」を同時並行に進めることにより効率性が失われるリスクについて理解を求める趣旨だ。また、マルムストロム委員は、EUが「通商協定」に先行して「投資保護協定」単独の交渉を進めている中国およびミャンマーの事例を挙げ、相手国の状況次第では必ずしも「通商協定」と「投資協定」が同時並行で進められない現実にも言及した。

マルムストロム委員は「EUは、どのような交渉戦略を取ったとしても、最終的には世界の主要な相手国と投資保護協定を交渉妥結できる」と自信を示し、EUの投資家の利益を重視する旨を伝え、スペイン側の理解を求めた。

(前田篤穂)

(EU、スペイン)

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