次回欧州理事会に向けて調整続く-第6回ブレグジット交渉会合が終了-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2017年11月13日

ブリュッセルで2日間の日程で開催されていた、英国のEU離脱(ブレグジット)第6回交渉会合が11月10日に終了した。欧州委員会のミシェル・バルニエ首席交渉官は会合後の会見で、「EUとしては英国からの譲歩を求めるつもりもないが、EU側からも譲歩する意図はない」と述べ、先の見えない財政問題の解決(清算)に対する焦燥感をあらわにした。12月14~15日に開催予定の欧州理事会(EU首脳会議)で、EU側としても、これまでの交渉に「十分な進展」があったとの認定による通商協議入りを模索したい状況だが、その前提条件が整わない中で、難しいかじ取りを迫られている。

3つの優先事項の合意を目指す

欧州委のバルニエ首席交渉官は11月10日、今回で6回目となるブレグジット交渉会合を終えて、記者会見に臨んだ。今回の交渉会合について、欧州委は前回10月に開催した欧州理事会(2017年10月23日記事参照)後の、次回12月開催に向けた「技術的な調整・議論深化のための会合」と位置付けているが、バルニエ首席交渉官は「英国の秩序あるEU離脱に関する協定に合意することを決心している」と語り、次回12月14~15日に開催予定の欧州理事会までに、少なくともEUが優先課題としている、(1)双方市民の権利保障、(2)北アイルランドとアイルランドとの国境問題の解決、(3)財政問題の解決、の3点については、合意に達したいとの思いをにじませた。

しかし、バルニエ首席交渉官自身が今回の会見で、「EUとしては英国からの譲歩を求めるつもりもないが、EU側からも譲歩する意図はない」と述べたとおり、EUとしてはまず、上記3点全てについての合意を形成(交渉第1段階)し、その上で、EUと英国の通商協定を含む将来関係についての協議(交渉第2段階)に着手する基本方針を堅持する姿勢だ。今回の会見でも、同首席交渉官は「(EUとしての)優先課題3点については分離不能」とし、EUにとっての優先課題の先送りには応じない考えをあらためて強調した。

双方市民の権利保障では幾つかの進展

EUとしての優先課題のうち、(1)双方市民の権利保障について、バルニエ首席交渉官は「幾つもの点で継続協議が必要だが、幾つかの進展もあった」と概観した。例えば、英国政府は、英国在住のEU市民(非英国人)が継続的な資格を得るための手続きシステムを導入しようとしているが、EU側としては、そのシステムの運用について、英国に暮らすEU市民がそれら行政システムを利用する場合の利便性・コストに配慮すべきだとのスタンスを示している。また、EU市民の継続的な資格申請が拒否された場合に、抗弁するシステムの導入も必要だとしている。継続協議が必要な点については、同首席交渉官は以下の3点を挙げた。

○(EU・英国間の)家族・親族の再統合(離脱後の家族呼び寄せと生まれた子供の扱い)

○社会保障給付を輸出する権利(英国で納付した社会保険料などを、その他のEU加盟国でも年金・保険などとして受給できる権利)

○EU・英国間の継続的な司法制度運用を保障するためのEU司法裁判所の役割

(2)北アイルランドとアイルランドの国境問題の解決については、英国とアイルランド間の国境線の自由化を担保する「共通旅行区域(CTA)」の継続運用などを通じて、厳格な国境管理への回帰は避けることができるとの認識で一致しており、アイルランドの特殊性に配慮した対応が必要としている。

先の見えない財政問題解決に焦燥感も

他方、(3)財政問題の解決について、バルニエ首席交渉官は「テレーザ・メイ首相がフィレンツェで表明したコミットメント(2017年9月25日記事参照)を具体的に明文化すべきだ」と、これまでの主張を繰り返し、協議の終わりが見えないことに対する焦燥感をあらわにした。当該問題が、12月に開催予定の次回欧州理事会の場で『十分な進展』があったと認めるための前提条件と言及。次回欧州理事会に向けた今後の数週間が、双方の共通目標である「秩序あるEU離脱」を実現するカギを握る、とコメントした。

(前田篤穂)

(EU、英国)

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