進捗判断は次回の欧州理事会に持ち越しへ-ブレグジット交渉の協議結果を公表-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2017年10月23日

欧州理事会(EU首脳会議)は10月20日、ブリュッセルで開催された同理事会での英国のEU離脱(ブレグジット)問題をめぐる協議結果を公表した。EU側が優先課題として掲げる(1)双方市民の権利保障、(2)北アイルランドとアイルランドとの国境問題、(3)財政問題解決(清算)のうち、(3)の解決に向けた英国政府の取り組みは依然として不十分との認識を明らかにした。履行債務額について明言を避ける英国政府に対する不信感をにじませたが、今後EU側が「十分な進捗」を認めた場合、英国側が求めている通商協定や移行期間などについての協議に応じる可能性も示唆。進捗判断を次回の欧州理事会に持ち越す方針だ。

交渉第2段階への移行判断を12月に持ち越す

欧州理事会は10月19~20日の2日間の協議を終え、10月20日付でブレグジット問題についての協議結果を公表した。英国側の財政問題解決(対EU債務額の明確化など)に対する取り組みは依然として不十分との見解を示し、EU側が優先課題として掲げる(1)双方市民の権利保障、(2)北アイルランドとアイルランドとの国境問題、(3)財政問題解決の交渉について、「十分な進捗」があるかどうかの判断を次回(2017年12月14~15日の予定)の欧州理事会に持ち越す方針を固めた。今回の発表では「可能な限り早期に、(通商協議を含む)交渉の第2段階に移行するため、作業を続ける必要がある」との認識を明らかにしているが、英国政府が財政問題の解決に向けて、履行債務額について明確にコミットメント(明言)しないことに対するEU側の不信感は根深い。

財政問題以外の交渉進捗は認める

今回の欧州理事会の発表によると、EU側は(1)双方市民の権利保障について、「これまでの交渉進捗を歓迎」「(ブレグジット以降も)EU司法裁判所の機能や簡素な行政手続きを通じて、EU法の下で認められてきた全ての市民やその家族の権利保障実現を目指す」としている。また、(2)北アイルランドとアイルランドとの国境問題については、和平プロセスに道筋をつけた「ベルファスト合意(聖金曜日協定)」の順守や、英国とアイルランド間の国境線の自由化を担保する「共通旅行区域(CTA)」の継続に関する共同原則について前進があったとの認識を示し、厳格な国境復活の回避に努めるなど、北アイルランドの特殊性にも配慮した柔軟な対応が必要と指摘。(1)と(2)については、EU・英国双方の認識の収れんなど、交渉に進展がみられると結論付けた。

しかし、(3)財政問題について、英国側は(テレーザ・メイ首相がイタリア・フィレンツェ演説で)EU加盟国として負担に合意した財政的な責務は履行すると述べているにもかかわらず、英国政府からは具体的で明確なコミットメントを得られていないとの現状認識を、交渉結果として明示した。EU側は、メイ首相のフィレンツェ演説での「債務履行」発言を重視(2017年9月29日記事参照)しているが、これまでの交渉に「十分な進捗」があったとは認めず、結果として、(通商協議を含む)交渉の第2段階にも進めない、というのがEU側の一貫した姿勢だ。

EU側は進捗に向けた内部準備協議を開始へ

欧州委のミシェル・バルニエ首席交渉官は、第5回交渉会合直後の記者会見で、この財政問題にかかる交渉が「暗礁に乗り上げた」と発言(2017年10月13日記事参照)しており、ブレグジット交渉には手詰まり感が漂う。今回の欧州理事会の発表で、EU側は「優先3課題」について『十分な進捗』が実現したか否かについての最終判断を次回の欧州理事会で行う方針も示された。

「十分な進捗」の実現が認められれば、英国側が求めている通商協定など将来関係についての協議や、性急な通関措置復活などに伴う経済・産業の混乱を回避するための移行期間の設定の協議などについての追加的ガイドラインを、EUとして採択する可能性も示唆している。また、EUとして、交渉官などには内部での準備協議を開始するよう指示するとも言及しており、次回欧州理事会に向けて、英国政府が「履行債務額についてのコミットメント」をどこまで明確化できるかが、今後の交渉の行方を決めるものとして注目される。

(前田篤穂)

(EU、英国)

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