2年程度の移行期間設定の考え方を表明-メイ首相がEU離脱交渉についてスピーチ-

(英国、EU)

ロンドン発

2017年09月25日

テレーザ・メイ首相は9月22日、外遊先のイタリア・フィレンツェでEU離脱(ブレグジット)交渉についての考え方をあらためて明らかにした。EU離脱後のビジネス環境の安定性を確保するため、2年程度の移行期間を設定したいとする考え方が明らかになった。今回の演説がEUとの交渉進展に影響するのか注目される。

EEAモデルや既存FTAモデルを否定

EU離脱交渉についての包括的な考え方をメイ首相が明らかにするのは、2017年1月にロンドン市内で行ったスピーチ(2017年1月18日記事参照)に続き2度目。その後、6月以降これまで3度にわたりEUとの本格交渉が実施されているが、その進捗は必ずしも芳しいとはいえない。このため、今回のスピーチが交渉を加速させる起爆剤になるか否かが注目されていた。

今回のスピーチでメイ首相は、EU離脱後のEUとの通商関係について、特別なパートナーシップを構築する考えを強調した。将来の通商関係については、欧州経済領域(EEA)の通商モデルをベースにする考えや、通常の自由貿易協定(FTA)をベースにする考えなどが選択肢として挙がるが、メイ首相は、双方ともに英国とEUの通商関係には当てはまらないとした。まず、前者については、EEA加盟国はEU法規則の受け入れが必要なことに加え、これらの制定に英国が関与できないため認めることはできないとの考えを示した。また、後者については、どれだけ先進的なFTAであれ、既存の英国とEUとの通商関係に比べれば、相互市場へのアクセスなどに制限が生じる、などとした。では、いかなる通商関係を構築するのかについては、現在、無関税で貿易が行われているEU加盟国との間で関税を設ける必要はなく、規制環境についても既に高い水準での調和が図られていることから、解を見いだすことは可能、とした。

産業界は行き詰まり打開に期待

産業界にとっての当座の最大の関心事は移行期間の設定にあるが、メイ首相は、その必要性を認めつつ、2年程度としたいとする考えを明らかにした。ただし、この期間に英国で居住・就労しようとする場合、移行期間後の英国の新たな移民管理制度を見据え、所定の登録手続きが必要とする考えも付け加えた。

EUとの交渉は大きく分けて、離脱交渉と将来の関係についての交渉からなる。離脱交渉はEUへの拠出金の清算、既存の在英EU市民・在EU英国民の権利、英国(北アイルランド)とアイルランドとの国境線の取り扱いの3つを争点とするが、EU側はこれらへの一定の解決がないと次の段階の交渉には進ませない構えだ。事前の報道などでは、拠出金の清算について具体的な金額が提示されるのではないかともされていたが、今回のスピーチでは「加盟国として約束した金額の支払いは引き受ける」と述べるにとどめ、金額の明示は見送られる結果となった。

スピーチへの産業界の反応をみると、英国産業連盟(CBI)は「崖っぷち(クリフエッジ)を避け、現状を維持しようとする今回のメイ首相の発言を歓迎する」としつつ、「来週までに目に見える進展を図らねばならず、実践的かつ柔軟な姿勢が不可欠」と、9月25日から行われる4回目の本格交渉への期待を述べた。英国商工会議所も同様に、「ここ数カ月の交渉の行き詰まりを打開しようとするもの」と評価している。また、英国経営者協会(IoD)は「移行期間の設定が政策としてしっかりと位置付けられた」とし、「既存のFTAモデルを追わないと明言した点を歓迎する」とコメントした。

(佐藤央樹)

(英国、EU)

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