迅速な改革で失業率改善を狙う-改正労働法が発効(1)-

(フランス)

パリ発

2017年10月16日

マクロン大統領の選挙公約の柱となっていた労働市場改革を目指す一連の関連法が9月23日に公布され、即日発効した。政府は労働法改正案を労使代表との協議を通じて策定、「オルドナンス」と呼ばれる政府の委任立法権限に基づく法規のかたちで早期の改正を実現した。同大統領は改正により失業率の改善を狙うが、雇用にどれだけ効果があるか疑問視する声もある。労働法改正に至った経緯、改正のポイントを2回に分けて報告する。

「オルドナンス」という立法手続きで改正実現

マクロン大統領は、2022年までに現在9.5%の失業率を7%まで引き下げたいとしており、大統領選の時から迅速な労働改革を実施するために「オルドナンス」という行政命令形式の立法手続きにより労働法改正を行うと公約していた。

オルドナンスとは、政府の委任立法権限に基づく法規のこと。憲法第38条により、「綱領実施のため一定の期間に限り、政府は、通常は法律の分野における措置をオルドナンスにより定めることの承認を国会に対し求めることができる」と規定されており、政府はオルドナンスの概要を定めた授権法案を国会に提出し、可決された場合、政府はオルドナンスの形式により法律を制定することができる。労働法改正に係る授権法は8月2日に成立していた。

オルドナンスは公布日に発効し、オルドナンスを追認する法案が国会で否決された場合は法としての効力を失う。9月15日に公布された授権法により、追認法案はオルドナンス公布から3カ月以内に提出されるものと規定されたが、与党「共和国前進」が国民議会(下院)の過半数を占めていることから、改正法は追認される見込みだ。

改正法については、共産党系の労働総同盟(CGT)が「労働者の権利を縮小し、雇用主の権力を拡大するもの」と批判し、9月12日、21日にデモ行進を呼び掛けたが、2016年7月に成立した労働法典改正法(通称「エル・コムリ法」)でCGTとともに反対した労働者の力(FO)やフランス民主主義同盟(CFDT)は「自分たちの意見をくみ取ってもらえなかった」と改正の内容に失望を表明はしたものの、CGTの呼び掛けには応じなかった。中小企業連盟(CPME)は「実践的な改革」と評価している。

労働市場改革による競争力強化は悲願

労働市場改革は以前からフランスにおいて大きな課題と捉えられており、マクロン政権発足以前から改革が進められてきた。2013年6月に労働市場の柔軟化と雇用の安定化を図る法律が公布された。労使間対話型の企業経営を目指し、従業員の取締役会参画を義務付けるとともに、不況時の雇用確保に向けた労使間の事前交渉の強化、集団解雇の手続き簡素化、復職権を伴う転職制度の創設などが盛り込まれた。また、政府は2017年までに30万人の雇用創出を目指す目標を掲げ、労働コストの引き下げのため「競争力・雇用税額控除(CICE)」や「責任協定」を導入した。

2015年8月には、「経済の機会均等・経済活動・成長のための法律」(通称「マクロン法」)が発効した。当時、経済・産業・デジタル相だったマクロン大統領が、フランス経済の活性化を目指して策定したもので、目玉施策として、日曜・夜間営業の規制緩和のほか、長距離バスの自由化、雇用維持協定の緩和などが定められた(2015年8月20日記事参照)。

さらに2016年7月に成立した、労働規制を柔軟化するエル・コムリ法では、雇用拡大・企業の競争力強化を目的に、企業レベルの労使合意により労働時間の調整を可能とし、経済的解雇の定義が明確化された(2016年8月4日記事参照)。

今回の改正労働法は、これまで進めてきた労働市場改革をさらに前進させ、さらなる雇用の安定化や競争力向上を狙ったものだ。

(奥山直子)

(フランス)

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