データ制約に関する規定は特になし-中南米のeコマース事情(2)-

(メキシコ)

メキシコ発

2017年10月12日

メキシコでは、電子商取引(EC:eコマース)に関わるデータ制約に関する規定は特になく、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉でも現時点ではECに関するデータ制約を設けない方向に動く可能性が高い。EC限定の規制対象商品はないが、通常の貨物と同様に非関税規制は順守する必要がある。小口配送では国際郵便のメリットが大きいが、メキシコ特有の遅延・紛失などの郵便事情の悪さから、国際宅配便を勧めるECサイトもある。メキシコ編の2回目。

NAFTA再交渉でも「制約」に向かわない見通し

経済省商工局イノベーション・サービス・貿易部デジタル経済課のガブリエラ・リベラ氏への取材では、関連する規則は複数の省庁にまたがるとしながらも、データセンターの国内設置義務など、ECに関してのデータ制約に関する規定は特にないようだ。経済省は、特に連邦個人情報保護法に基づく職権の執行や、啓発・普及活動を主に実行しているとのことだった。

ただし、メキシコは2011年導入のAPEC越境プライバシールールシステム(CBPR)に参加〔2016年現在で米国、メキシコ、日本、カナダがエコノミー(国・地域)として参加〕している。同システムは、企業などの越境個人情報保護に係る取り組みに関し、APEC情報プライバシー原則への適合性を認証する制度だ。申請企業などは、自社の越境個人情報保護に関するルールや体制などに関して自己審査を行い、その内容についてあらかじめ認定された中立的な認証機関(アカウンタビリティー・エージェント:民間団体または政府機関)から認証審査を受けることになる。

もう1つは、NAFTA再交渉の行方だ。NAFTA再交渉においては、現代化を目指し電子商取引章が設定される可能性がある。その中身は限りなく環太平洋パートナーシップ(TPP)協定第14章「電子商取引」に近似することが想定される。データ制約に関しては、越境データ通信を制限する措置を課さないこと、ソースコードの開示を義務付けることを防止するルール確立などが盛り込まれる可能性がある。いずれにせよ、ECに関してデータを「制約」する方向には向かわないものとみられる。

EC限定の規制対象商品はなし

ECに限った規制対象商品はないが、非関税規制は同様に順守する必要がある。具体的には、税関法、貿易法、輸出入一般関税法、経済省貿易細則・判断基準省令、その他省庁輸入規制(品目リスト)省令に定めのある品目(ジェトロウェブサイト・国別情報・メキシコ『貿易管理制度』を参照)、麻薬やわいせつ物、危険物など万国郵便条約に基づく禁制品(国際郵便のケース)、メキシコ公式規格(NOM)履行義務に定めのある品目などが考えられる。

個別配送の場合は、国際郵便、国際宅配便などを利用する際に、配送可能か判断されるが、アマゾンのメキシコや米国のFBA(2017年10月11日記事参照)在庫のようなケースでは、前述の規制は通常の商業貨物と同様に扱われる。こうしたケースの相談では、例えばアマゾンのウェブサイト内にFBA納品代行業者や通関コンサルティング業者がリストアップされているので、これらに問い合わせることが可能だ。そのうちの1社であるDICEXのコンサルタントであるカルロス・アレバロ氏にヒアリングしたところ、メキシコの輸入者となって通関するほか、顧客への代金請求や返品対応なども行っているとのことだった。

そのほかEC関連の法律としては、連邦消費者保護法第8章BIS(電子商取引における消費者の権利)、商法(電子商取引の契約成立を規定)、連邦個人情報保護法(個人情報保護全般)などがある。加えて前述のNAFTA再交渉関連では、デジタルプロダクツへの非課税、無差別待遇も関連することになるだろう。

小口配送に関税面などのメリット

小口配送を検討する材料としては、国際郵便(300ドル以下)で、商品の特徴や数量から個人用の商品であることが明らかな場合、関税(IGI)、付加価値税(IVA)、行政通関手数料(DTA)なしで配送される。また、300ドル超~1,000ドル以下の場合には、総合課税(IGIとIVAを合わせた簡易税率)として、一律16%で通関される(DTAは免除)。なお、300ドルを超えて個人用商品であることが明らかでない場合は、非関税規制の適用条件を満たしている必要がある。ちなみにIVAは、食品や医薬品などの例外品目を除けば16%だ。

国際宅配便の場合には、郵便と同じ待遇ではない。価格が5,000ドル以下の貨物の場合、宅配業者の社内通関士が荷受人に代わり簡易通関として輸入申告を行う。輸入業者登録は不要だが、非関税規制は満たす必要がある。ただし、50ドル以下の小口貨物については、IGIとIVAが免除されるが、DTAは支払う必要がある。50ドル超についてはIGIとIVAをあわせた一律16%の総合税率で通関する。

これらを比較すると国際郵便にメリットがありそうだが、アマゾンでは国際宅配便による輸送を出品者に勧めている。理由として、メキシコ郵便の「遅延」「紛失」の多さを挙げ、さらにドア・トゥ・ドアのトラッキングができないことも一因だとする。アマゾンの場合、タクシーアプリのウーバーに似た仕組みで、顧客が店を評価するシステムが組み込まれている。顧客からの評価が一定水準より下がると、その店はマーケットプレイスから退場させられる。こうしたことから、商品の遅延や紛失といったトラブルの回避策が、輸送コスト以上の問題として重要だというわけだ。

(中島伸浩)

(メキシコ)

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