アイルランドとの「ベルファスト合意」の重要性を指摘-英政府、国境線のポジションペーパー公表-

(英国、アイルランド)

ロンドン発

2017年08月18日

英国政府は8月16日、EU離脱(ブレグジット)後のアイルランドとの国境線の取り扱いについての考えをまとめたポジションペーパーを公表した。北アイルランド和平を支える「ベルファスト合意」の内容や、共通旅行区域(CTA)とこれから派生する権利を維持する考えなどが示された。

北アイルランド和平の根幹をなす「ベルファスト合意」

今回のポジションペーパーは、EU離脱交渉の第3ラウンドを2週間後に控えて、EU司法裁判所(CJEU)の管轄権、原子力セーフガード、EU機関の特権・免責についての3種類のポジションペーパー(2017年7月18日記事参照)に続くかたちで公表された。

ポジションペーパーではまず、北アイルランド和平の根幹をなす「ベルファスト合意」(注)の内容を維持することの重要性を指摘し、EU離脱の合意文書の中に、北アイルランド和平を支えるために、英国、アイルランド、EUの3者がこの内容を支持して行動を取ることを明記するよう訴えた。

「ベルファスト合意」により、北アイルランドの住人は、英国とアイルランド双方の市民権を持つことができる。ポジションペーパーは、両国の市民権ないしアイルランドの市民権を持つ北アイルランドの住人は、英国のEU離脱後もEU市民と見なされ、EU市民としての権利が保障されるよう求めている。

また、EU基金にも言及があり、「EU平和プログラム」に基づき北アイルランドに対して行われている資金支援については、現在進められている支援を継続させるだけでなく、将来的な支援の可能性も探りたいとしている。

CTA制度とEU加盟は無関係との考え

ポジションペーパーには、英国とアイルランド間の国境線の自由化を担保するCTAと、これに派生する権利の保障についての考え方も盛り込まれた。これは、英国とアイルランドの国民が両国国境を自由に横断することだけなく、両国での自由な居住・就労・就学を行い、社会福祉・健康サービスを利用するとともに、投票行動を取ることまでを認めるものだ。CTAの発足は英国とアイルランドのEU加盟に先立つもので、EUの存在とは関わりなく2国間の関係として設けられた。従って、英国がEU加盟国か否かは問題でないという考えだ。

アイリッシュ海に境界を設ける案は否定

輸出入に伴う両国間の製品の移動については、8月15日に公表されたEU関税同盟からの離脱後の関税制度に関する将来のパートナーシップペーパー(2017年8月17日記事参照)に依拠し、関税上の諸手続きの最大限の簡素化と、新たな関税上のパートナーシップ構築の2案が示された。

関税手続きの最大限の簡素化については、北アイルランドとアイルランドの関係性を考慮すると、搬入と搬出の略式申告の免除などを維持することが肝要とする認識が示される一方、新たなパートナーシップについては「前例のないアプローチ」だとし、実現に向けて越えるべきハードルは高いとされた。

両国間での関税の取り扱いについては、関税上の境界を現在の北アイルランドとアイルランドの境界からグレートブリテン島とアイルランド島の境界(アイリッシュ海)に移すべきという考え方も存在する。しかし、今回発表されたポジションペーパーはこれを否定し、「北アイルランドとアイルランド間の国境自由化の維持が最優先課題だからといって、両島の間に関税上の境界を設けることがあってはならない」とした。

南北協力と東西協力が引き続き重要と指摘

このほか、エネルギー供給を引き合いに、北アイルランドとアイルランドの協力関係(南北協力)と、英国とアイルランドの協力関係(東西協力)を維持すべきだとする考えも示された。南北協力では、北アイルランドを含むアイルランド島全体で1つの電力卸市場が形成されているほか、東西協力としては国際連系線を介して両国のエネルギー供給網が接続されており(2017年6月8日記事参照)、EUを離脱した後もこれらの協力関係を保持する必要性が指摘された。

(注)1998年に、英国とアイルランドの間で結ばれた和平合意。これにより、北アイルランドの将来の帰属は、北アイルランド住民の意思に委ねられている。また、コミュニティー間の合意による権限移譲に基づいて運営される北アイルランド政治体制が構築された。

(佐藤央樹)

(英国、アイルランド)

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