EU司法裁判所管轄権などの考えが明らかに-英政府、3種類のポジションペーパーを公表-

(英国、EU)

ロンドン発

2017年07月18日

EU離脱省は7月13日、17日からの交渉第2ラウンドを前に、EU離脱(ブレグジット)交渉における論点のうち3種類のポジションペーパーを公表した。中でも、EU離脱日前に生じた英国関連案件であっても、EU離脱日以降に提訴される場合、EU司法裁判所(CJEU)の司法管轄を認めないとする考え方などが示された。

CJEU管轄はEU離脱前の提訴案件に限定

今回のポジションペーパーは、7月17日から始まったEUとの第2回交渉を前に公表されたもので、EU離脱後のCJEUの管轄権、原子力保障措置(セーフガード)、在英EU関連機関の特権の取り扱い、という3つの論点について英国の考え方が示されている。

まず、CJEUの管轄権について、EU離脱によりCJEUの司法管轄は英国に及ばなくなる。しかし、EU離脱の日をまたいで係争が続くことになる案件も生じると考えられることから、このような案件をCJEUに委ねるのか、それとも英国側が判断を下すことができるのかについて事前に定めることが必要になる。ポジションペーパーでは、英国に関連する案件について、EU離脱までにCJEUに提訴された場合にはCJEUの司法管轄を認めるものの、それ以降提訴された場合は認めず、英国側で問題を取り扱うとする考え方が示された。この考え方に基づけば、当該案件自体はEU離脱の前に生じていたとしても、EU離脱前にCJEUに提訴されない限りはCJEUの司法管轄は認められないことになる。

独自の原子力セーフガードを構築

次に、原子力セーフガードについて、政府はEU離脱に伴い、欧州原子力共同体(Euratom)を離脱することを表明した(2017年6月7日記事参照)。EU離脱後もEuratom残留を模索しようとする動きもあるが、ポジションペーパーではEuratomを離脱する意思があらためて示された。これにより、Euratomで代替されてきた原子力保障措置を英国独自に構築することが求められる。ポジションペーパーでは、国際原子力機関(IAEA)と自発的提供協定(VOA)を結ぶことで、英国の原子力保障措置を国際法上で位置付けるとともに、この協定に基づき英国としての国際的な役割を果たすとされた。また、米国、カナダ、オーストラリア、日本などとの間で原子力協力協定を締結するとし、原子力利用において結び付きの強い第三国との間での協力関係継続に向けた基盤整備への意欲を明らかにした。

一方で、EU離脱後も研究開発や技術力向上、原子力関連貿易での障壁最小化などの面でEuratomと引き続き協力していく考えが示された。デービッド・デービスEU離脱相は、BBCのインタビューに対し、Euratomの準加盟国となることを模索する可能性についても言及している。

EU機関の特権・免責を一定期間は保護

最後に、在英EU関連機関の特権などの取り扱いについて、EU関連機関やその資産・スタッフなどは、EU加盟各国における業務運営において特権・免責を認められているが、EU離脱により、これら特権などが付与されなくなる。しかし、英国内での業務清算には一定の時間が必要になることから、この期間は特権・免責などを認めることとしている。

現在、英国には欧州医薬品庁(EMA)と欧州銀行監督局(EBA)が拠点を置いている。この2つの機関の移転先は今秋にも決定される見込みで(2017年6月23日記事参照)、この特権・免責保護の対象となる。また、「フィナンシャル・タイムズ」紙(電子版7月13日)によると、特権・免責保護を受ける期間において、欧州投資銀行(EIB)は、英国の銀行ライセンスを持たずとも事業を行うことが可能となるほか、政府による課税や土地収用などの対象にもならないという。

デービスEU離脱相はポジションペーパーについて、「英国の公平性・透明性の表れ」と交渉に臨む自らのアプローチを評価した。また、特にCJEUの司法管轄の問題に言及し、「EU離脱の日をまたぐ案件についての取り扱いを定めることは司法権の円滑な移行に資する」と述べた。

(佐藤央樹)

(英国、EU)

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