域内原産比率をめぐって労使の意見は対立-NAFTAに関する公聴会・パブリックコメント(自動車業界)-

(米国、カナダ、メキシコ)

ニューヨーク発

2017年07月14日

米通商代表部(USTR)は6月27~29日にかけて、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉に関する公聴会を開催した。6月14日に締め切ったパブリックコメントの内容と併せて、主要産業ごとに各団体の主張をシリーズで紹介する。1回目は自動車業界について。域内原産比率に関して、自動車メーカーは現状の比率の維持で一致したが、労働組合側は引き上げを求めている。

NAFTAは北米自動車産業の競争力を強化

USTRはNAFTA再交渉に向けた公聴会を6月27~29日に開催した。これに先立ち実施したパブリックコメントには、6月14日の締め切りまでに1万2,459件のコメントが個人や企業から寄せられた。NAFTA再交渉に向けた関心の高さがうかがえる。

自動車業界では、主要団体が足並みをそろえてNAFTAの米国経済への貢献を訴えた。メキシコとカナダを含む北米地域のサプライチェーンの一体性を強調し、これにより米国の自動車産業は競争力を高めてきたと主張している。

米国自動車工業会(AAM:Alliance of Automobile Manufacturers)は、北米地域のサプライチェーンが分断されれば、米国製自動車の販売価格の上昇や米国からの輸出減少を招き、国内の雇用を危険にさらすと警告している。同工業会には米自動車大手3社「ビッグスリー」(注1)のほか、トヨタ、マツダ、BMW、フォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツ、ポルシェなど主要自動車メーカーの多くが加盟しており、ジェニファー・トーマス副代表は公聴会で、「米国企業だけではなく、外国の自動車メーカーも米国の輸出拡大に貢献している」と述べた。

米国自動車部品工業会(MEMA:Motor & Equipment Manufacturers Association)のリー・メリノ規制渉外担当シニアディレクターも、NAFTA再交渉は「米国自動車産業の国際的な競争力強化を目指しつつ、同時に、生産価格の上昇やサプライチェーン分断などの悪影響を米国経済に与えないように行われなければならない」と政権を牽制した。

メーカーは現行の域内原産比率の維持で一致

NAFTAの特恵関税適用を受ける上で製品に課される域内原産比率に関しても、自動車メーカーは米系・非米系ともに現行の比率の維持を求めている。NAFTAは完成車(大型バス・トラックを除く)の域内原産比率について、純費用(ネット・コスト)方式で62.5%(注2)と定めている。ビッグスリーが組織する自動車政策会議(AAPC:American Automotive Policy Council)のマット・ブラント代表は「62.5%の域内原産比率は、他国がNAFTAにただ乗りすることを阻止すると同時に、企業が必要な部材を輸入することを可能にするちょうど良い比率」と公聴会で述べた。

他方、全米最大の労組組合である米国労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)は、完成車と自動車部品の域内付加価値比率の引き上げを求め、パブリックコメントの意見書で、「域内原産比率は、NAFTAによる市場アクセスの利益が署名3カ国とその労働者に優先的にもたらされるように設定されるべきだ」と主張した。全米自動車労働組合(UAW)の意見書にも同様の主張が見られる。

また米国鉄鋼協会(AISI)は、トレーシングリスト(注3)に鉄鋼を加えるよう主張した。「幾つかのトレーシング対象品目は鉄鋼を多く使う製品だが、鉄鋼自体はトレーシングの対象になっていない。このため、北米産の鉄鋼を使用する、または北米産の鉄鋼を使用したトレーシングの対象品目を優先的に購入するインセンティブを、NAFTAは北米の製造企業に与えていない」としている。

再交渉に期待する分野も

自動車業界の団体はこのほか、電子署名の活用を通じた税関手続きの円滑化や、国境を越えたデータ移動の自由の確保を求めた。両分野は環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の合意事項にも含まれており、こうしたNAFTAの「現代化」を目指した事項については企業の支持も強い。

税関手続きの円滑化については、日系企業関係者から「NAFTAの再交渉は、基本的に現状維持を訴える守りになるが、税関手続きの円滑化は数少ない攻めの分野」との声が聞かれる。データ移動の自由についても、「大事だ。データ移動が規制されれば、研究開発に支障が出る」との声が日系企業から聞かれた。米国自動車工業会は、20年以上前に発効されたNAFTAには国境を越えたデータ移動に関する規定がないとし、自動車メーカーがデータを自由に移動できることを保証する規定をNAFTAに盛り込むべきとしている。

ビックスリーは為替操作条項の導入求める

AAPCは、為替操作を行った国に対して特恵関税の適用を取りやめる条項をNAFTAに導入するよう求めている。「メキシコやカナダは為替操作を行ってはいないが、NAFTAに強制力のある為替操作条項を導入することは重要な先例となり、為替操作を行っている他国と対峙(たいじ)するために協力できるプラットフォームを構築することになる」とその意義を強調し、ブラント代表は公聴会で、為替操作を行っている国として日本を名指しで批判した。なおAAPCは、TPPの交渉においても為替操作条項の導入を強く求めていた。

(注1)ゼネラルモーターズ(GM)、フォード、フィアットクライスラー・オートモービルズ(FCA)の3社。

(注2)完成車の純製造費用のうち非原産材料価額を引いた価額が62.5%以上あれば、当該完成車をNAFTA原産と見なす方式。

(注3)NAFTAの完成車(大型バス・トラックを除く)における域内比率の算定においては、「トレーシングルール」と呼ばれる特別なルールが用いられている。トレーシングルールの下では、定められた関税番号リスト(Annex403.1)に該当する部品(トレーシング対象部品)が域外から輸入されている場合にのみ、当該部品の輸入時点までさかのぼって「非原産材料価額」に含めることが求められる。Annex403.1に該当しない部品については、たとえ域外から輸入したとしても「非原産材料」扱いにはならない。

(鈴木敦、赤平大寿)

(米国、カナダ、メキシコ)

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