東部経済回路への投資を日本企業に呼び掛け-ソムキット副首相が訪日、東京でシンポジウム開催-

(タイ、日本)

アジア大洋州課

2017年06月22日

タイ投資委員会(BOI)とジェトロは6月7日、「タイ投資シンポジウム」を東京都内で開催した。シンポジウムではソムキット副首相らが、産業の高度化と持続可能な成長を目指すビジョン「タイランド4.0」実現に向けた投資を呼び掛け、パネルディスカッションでは、日本側が規制緩和など制度面でのさらなる改善をタイ政府に要望した。

タイ政府はEECへの積極的関与を強調

基調講演したソムキット副首相は「タイにとって今は改革の時期」と、急速に進行する少子高齢化や高度人材の不足など「中進国」特有の問題に直面していることを認めた上で、東部経済回廊(EEC)地域開発(2017年3月14日記事参照)について、「EECは製造業の高度化に向けた重要な政策となる。日本の投資家の協力なくして成功はない」と述べ、日タイ関係をさらに緊密にしていく意向を示した。また、一部の外国投資家がEEC地域開発の実現性や実行力を不安視していることを踏まえ、「EECは確実に開発していく」と、政府はEECへ積極的に関わっていくことも強調した。

続けて同副首相は、ウッタマ工業相と世耕弘成経済産業相が結んだ、産業の高度化やEECに係る情報共有などの協力の覚書(MOU)に触れ、日タイ経済協力の進展をアピールした。さらに、「CLMVT(カンボジア・ラオス・ミャンマー・ベトナム・タイ)を1つの市場として捉えれば大規模なものとなる」と述べ、タイを起点としたメコン地域全体への投資も呼び掛けた。

投資総額430億ドル、主要15プロジェクトを計画

ウッタマ工業相は、「タイランド4.0」の実現に向けてEECは重要な役割を果たすとし、「5年間で投資総額約430億ドル、15の主要プロジェクトを計画している」と述べた。ウタパオ国際空港の拡張(57億ドル)、レムチャバン港とマプタプット港の増強(28億ドル)、高速道路の整備・鉄道の複線化(28億ドル)、チョンブリー県シラチャに建設予定の「タイランドデジタルパーク」(115億ドル)などだ。

また、ヒランヤーBOI長官は「EEC進出企業に対して最大15年間の法人税免除の恩典を付与できる」「研究開発(R&D)関連設備の輸入関税を免除する」などと、税制上の投資優遇措置をアピールした。BOIが2009年に開設した、タイで起業する際の窓口となる「ワンスタートワンストップ投資センター」と併せて、タイ政府として円滑な事業運営を支援する考えを示した。

日本側は人材育成や規制緩和を要望

「日本企業のタイにおける投資動向と戦略」と題して行われたパネルディスカッションでは、パネリストとして日立製作所の田辺晴雄執行役専務、ヤマトホールディングスの相川広充執行役員、タイトヨタの岡山豊シニアエグゼクティブアドバイザーの3人が登壇した。

モデレーターを務めたジェトロ・バンコク事務所の三又裕生所長は、EECに関する緊急アンケート(2017年5月16日記事参照)について、「日系進出企業はEECの投資優遇政策についておおむね評価している一方、タイ政府のより強い関与や先進産業を支える高度人材の育成への要望がある」と述べた。

日立製作所の田辺氏は、タイ政府が鉄道整備を官民連携(PPP)方式で計画していることを受けて、英国におけるPPP方式の鉄道整備案件を例に挙げ、「PPPで重要なのはライダーシップリスク(一定程度の乗客数を確保できない場合の責任)を誰が取るかということ。政府の強い決意が必要」と語った。ヤマトホールディングスの相川氏は「物流における外資規制や通関制度の不透明性、そして食肉に多くみられる輸送規制」など制度面の遅れを指摘し、「タイがメコン地域のハブになるためにはさらなる規制緩和が必要」と訴えた。また、タイトヨタの岡山氏は、バンコクで行われている交通渋滞の解消プロジェクトを例に挙げ、1つの政策の実行には「政府側の連携、官民連携が重要。それがより一層の民間投資につながっていく」と述べた。

写真 基調講演するソムキット副首相(ジェトロ撮影)
 写真 会場の様子(ジェトロ撮影)

(渡邉敬士)

(タイ、日本)

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