5年以上在留のEU市民に定住資格を付与-英政府、EU市民の権利保護基本方針を公表-

(英国)

ロンドン発

2017年06月28日

英国政府は6月26日、EU離脱(ブレグジット)後の在英EU市民の権利保護に関する基本方針を明らかにした。「特定期日」前に来英し5年以上居住したEU市民は定住資格が付与され、EU離脱後もこれまで同様に公共サービスを受けることができるとともに、5年に満たない場合も暫定期間が適用されることなどを内容とする。英国としては、この問題で早めにEUとの落としどころを探り、EU離脱後の通商関係などに交渉の焦点を移す考えだ。

要件を満たしたEU市民に定住資格付与

今回示された基本方針は、6月22~23日に開催された欧州理事会(EU首脳会議)(2017年6月23日記事参照)においてテレーザ・メイ首相が各国首脳に説明した内容を詳細に説明したもので、在EUの英国民に対して同等の権利が保護されることを前提として、在英のEU市民の権利保護についての考え方が示されている。

まず、基本方針では、2019年3月29日に予定するEU離脱まで、在英のEU市民の権利は完全に保護されることがあらためて確認された。

EU離脱後は、英国法上にEU市民向けの定住要件を設け、これが適用される。定住資格が付与されるためには、特定の期日までに来英し、5年以上の期間を経ていることが必要となる。定住資格が付与されたEU市民は、公共サービスや公共金融サービスを受けることができるなど、これまでどおりの権利が保護され、英国市民権を申請することも可能だ。

「特定期日」の設定が今後の焦点に

一方で、特定の期日までに来英したものの、EU離脱の段階でも在英期間が5年に満たない場合は、5年に達するまで英国に居住し続けるための暫定措置を申請することができ、5年が経過した段階で定住資格が与えられる。また、英国定住資格を持つEU市民の家族は、EU離脱前に来英している場合は、その来英日の特定期日との前後にかかわらず、5年の在英期間を経ることで定住申請をすることができる。

しかし、特定の期日以降に来英したEU市民の権利の扱いは不透明だ。基本方針によると、このようなEU市民に対しては暫定期間に限り、英国に滞在することが認められる。状況次第で定住資格が与えられる場合があるものの、確実ではないとされている。

従って、特定の期日がいつになるのかが、EU離脱後のEU市民の権利に大きく影響することになる。これについては、EU離脱通知が正式に発せられた2017年3月29日とEU離脱が実現する2019年3月29日の間に設けるとし、具体的な期日はEUとの交渉によるとした。

なお、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、スイスの欧州自由貿易連合(EFTA)加盟国市民に対しても同様の取り扱いが検討される。

政府は早期合意を期待

在英EU市民の権利と在EU英国民の権利保護は、EU離脱に伴ういわゆる「清算金」の取り扱いや英国・アイルランド間の国境自由化維持とともに、交渉の優先課題だ。EU離脱の期限が定まる中、英国としては早めにこれらの問題の落としどころを探り、通商関係などの新たな関係に向けた議論を進めたい意向がある。メイ首相は6月26日に議会で行われたEU首脳会議の結果報告において、「各首脳は英国の考え方に非常にポジティブな反応を示しており、可及的速やかに合意を得ようという相互協力の強い意思を確認することができた」と述べた。

しかし、EU首脳会議のトゥスク常任議長がメイ首相の説明を「期待を下回るもの」と評価したように(2017年6月26日記事参照)、批判的な見方もある。また、在英EU市民からも基本方針を一層明確化することが必要との認識が示されたほか、定住資格の申請プロセスの煩雑さなどが指摘されるなど、内外からの理解の獲得が十分とはいえず、今後の交渉の難しさもうかがわれる。

(佐藤央樹)

(英国)

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