通商関係の「相互主義」を強調、保護主義に警戒感-EU首脳会議でトゥスク常任議長が表明-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2017年06月26日

欧州理事会(EU首脳会議)のドナルド・トゥスク常任議長は6月23日、同日閉幕したEU首脳会議を総括し、EUの通商政策として「保護主義への対峙(たいじ)」と「相互主義」を重視する姿勢を明らかにした。同氏はロシアに対する経済制裁の6カ月延長、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」へのEUとしての参画継続、英国に本拠を構えるEU専門機関の移転手続き開始を重要な決定事項に挙げたが、同時に通商政策では、EUにとっての公正な競争環境確保を「相互主義」の視点で重視する方針を打ち出した。

ブレグジットをめぐる英国提案に不満示す

トゥスク常任議長は6月23日、前日から2日間の日程でブリュッセルで開催されていたEU首脳会議(2017年6月23日記事参照)を終えて記者会見を開き、「EU首脳は3点の重要な決定を行った」ことを明らかにした。具体的には、ロシアに対する経済制裁の6カ月延長、地球温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」へのEUとしての参画継続、英国に本拠を構えるEU専門機関の移転手続き開始(英国を除くEU27カ国として了承)だ。

特に、EU専門機関の移転先については、2017年11月に開催予定のEU一般問題理事会で最終決定するとしている。トゥスク常任議長は、英国のEU離脱(ブレグジット)に伴う先行き不透明感を払拭(ふっしょく)するため、EU加盟国は結束し合意を急ぐべきだ、との認識を示した。

ブレグジット関連では、EUにとっての最優先課題である「在英EU市民の権利保護」について、英国のテレーザ・メイ首相が6月26日に英国政府としての提案を明らかにするとしている。EUはブレグジット以降も双方市民の権利を完全に保障すべき、との立場だ。しかし、6月22日にメイ首相がEU首脳に説明した英国政府の基本方針について、トゥスク常任議長は「詳しくは交渉チームの分析を待つ」としているが、第一印象では「期待を下回るもので、市民の立場を危険にさらす恐れがある」と不満を表明した。

通商政策で「保護主義への対峙」と「相互主義」を打ち出す

また、欧州中央銀行(ECB)のマリオ・ドラギ総裁がEU経済について楽観的な見通しを示していることについて触れ、トゥスク常任議長は「消費・投資・雇用に支えられた力強い経済成長に自信がある」「雇用創出は過去最高の水準だ」とし、EU経済に対するドラギ総裁の見立てを「ここ数年来の朗報だ」と指摘した。

このほか、トゥスク常任議長は「テロ対策」「防衛協力」「無秩序なグローバリズム」「(北アフリカ経由の)不法移民」などの問題も論議したと語った。特に、貿易および開放性と保護のバランスの問題について長い時間を費やしたと述べ、EUは今後もグローバル経済に開かれた地域であり続けると強調した。ただ、通商問題について、同氏は「EUがさらなる相互主義(reciprocity)を導入し、不公正な貿易慣行から市民を守る必要があるという意見で一致した」と述べ、世界で広がる保護主義に対峙する姿勢を鮮明にした。

EUとしての通商政策については、欧州理事会が6月23日に発表したEU首脳会議総括声明の中でも言及があり、「自由貿易こそが雇用と所得を生み出す」との考えを示した。また、「世界全体で大胆な自由貿易協定(FTA)を展開すべきだ」とも述べ、これまでのEUの通商政策を堅持する姿勢をみせた。ただし、「このためには、公正な競争環境を整備する必要がある」とも指摘しており、特にこれまでEUが重視してきた「社会・環境・健康・消費者保護などの基準」の準拠・尊重を貿易相手国に求める考えを示唆した。

欧州委の迅速なAD措置を重視

ダンピングなど不公正貿易慣行などへの対応については、「欧州委員会が立法手続きを経ず(non-legislative implementing measures)に迅速かつ効果的に、対抗措置を含めて、対処できるようにすべきだ」とし、新通商措置(2017年6月22日記事参照)では、EU域内で深刻な市場歪曲(わいきょく)などの事態が発生した場合、これまでのように時間のかかるEUとしての立法手続きを待つのではなく、欧州委の職権に基づく迅速なアンチダンピング(AD)措置を重視する考えを示唆した。

公共調達や投資の分野における相手国との「相互主義」の確立についても、欧州委と欧州理事会が協議を続けるべきだ、としている。具体的には、戦略分野へのEU域外国からの投資を評価する欧州委としての取り組みを歓迎する考えで、今後もその進捗などを欧州理事会などの場で取り上げるとしている。

また現在、EUが交渉を進めているメキシコ(FTA近代化)、南米南部共同市場(メルコスール)、アジア大洋州諸国との通商協定については、野心的でバランスの良い内容を目指すべきとし、同時に双方の利益を実現する「相互主義」を取り入れるべきだと指摘した。

なお、交渉が進んでいる日EU経済連携協定(EPA)については、欧州理事会として「最近の交渉進展について歓迎する」意向を示した。

(前田篤穂)

(EU、英国)

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