保守党と北アイルランドのDUPが協力協定に合意-EU離脱と安全保障関連の立法に範囲を限定-

(英国)

ロンドン発

2017年06月27日

保守党と北アイルランドの民主統一党(DUP)は6月26日、議会運営の「協力協定」に合意した。先の下院総選挙で過半数の議席を確保できなかった保守党にとってDUPの協力は不可欠だが、今回の協力はEU離脱と国家安全保障関連の立法に限られるため、北アイルランドへの総額10億ポンド(約1,400億円、1ポンド=約140円)規模の追加支援などもてこに関係性の維持を模索することとなりそうだ。

年金の「トリプルロック」制度を維持

下院総選挙の結果、議席の過半数を確保できなかった保守党とテレーザ・メイ首相にとっては、政権を運営する上で他党との協力が不可欠で、選挙直後から10議席を持つDUPとの協力関係の構築が模索されてきた。

合意は「協力協定(confidence and supply arrangement)」というかたちを取っており、EU離脱と国家安全保障関連の法案を議決する際に両党が協力する。しかし、その他の法案についてはケース・バイ・ケースで協力の可否が判断される。協定の有効期間は下院議員の任期の5年間とされ、2年後の2019年にレビューが行われることになっている。

「協力協定」には以下の内容が盛り込まれた。

まず、年金制度の維持だ。現在の年金制度は「トリプルロック」と呼ばれ、年金支給額の伸び率がインフレ率、賃金上昇率、2.5%の3つの指標のうちの最も高いものに合わせられている。この「トリプルロック」について、保守党はマニフェストで2021年以降に見直すと明言していたが(2017年5月29日記事参照)、これを維持することとされたほか、高齢者向けの冬季燃料手当(winter fuel payment)も維持される。

また北アイルランドでは、DUPとシン・フェイン党の対立から議会運営ができない状況が続いているが(2017年6月15日記事参照)、今回の合意では北アイルランド和平の根幹をなす「ベルファスト合意」の重要性を認識しつつ、早期の議会正常化に協力することが確認された。

総額10億ポンドを追加支援

協力協定では北アイルランド経済の振興に向けた政府支援も約束されている。

まず農業支援として、EU離脱後も2022年までの下院議員の任期中は、現行のEU共通農業政策(CAP)により補助されるのと同水準の支援を北アイルランドの農業従事者に提供する。

また、他の地域に比べ脆弱(ぜいじゃく)なインフラ整備のためにも資金が投じられる。道路網整備などに2年間にわたり年間2億ポンドが拠出され、高速ブロードバンドにも同じく2年間にわたり年間7,500万ポンドが支援される。さらに、北アイルランド政府への権限委譲の一環として独自の法人税率の設定を認めることも優先的な検討課題とされた。

こうした経済・産業支援に加え、教育や健康などの分野も合わせて総額で10億ポンドが北アイルランド向けに追加支援されることが合意された。

メイ首相は協力協定の合意を受けてコメントを発表し、協定は「EU離脱に向け国内の政治環境に確実性をもたらすとともに、強固で公平な社会づくりに寄与する」と歓迎する姿勢を表明した。DUPのアーリーン・フォスター党首も「今回の協定は、北アイルランド経済やインフラ投資などの活性化につながる」と期待感を示した。

(佐藤央樹)

(英国)

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