労働許可書の取得やVAT還付制度の変更点を説明-「税務・労務の注目事例セミナー」報告(1)-

(ベトナム)

ハノイ発

2017年02月01日

 ジェトロは2016年12月15日、ベトナム日本商工会(JBAV)ビジネス情報サービス委員会と、ハノイ市内で「税務と労務の注目事例」をテーマにセミナーを共催した。日系企業関係者ら約250人が参加し、3人の講師が最新事例を交えて解説した。概要を2回に分けて報告する。前編は、外国人の労働許可書の取得、付加価値税(VAT)の還付に係る制度変更などについて。

<労働許可書の取得には経験や能力の説明が重要>

 まず、労働許可書や強制保険などの労務面について、日系コンサルタントAICベトナムの今村茂ゼネラルディレクターが以下のように解説した。

 

 2016年4月1日に施行された政令11/2016/ND-CPによって労働許可書の取得要件が変更され、これまで「管理者」として発給が認められていたマネジャー職が対象外になり、「専門家」については、必要な勤務経験が5年から3年に短縮された(2016年2月26日記事6月17日記事参照)。

 

 「管理者」の場合、日本の役職名だけではベトナム当局が妥当性を判断できないため、おおむね12ヵ月以上の経験を有していることや、企業規模と職務内容などを説明する必要がある。

 

 「専門家」の事例としては、大学で経済学を専攻し、日本で勤務経験のある人が経営の専門家として労働許可書を取得できている。このように大学の専攻と業務の類似性が求められる。営業職は該当する学部が不明確であるため取得は難しくなる。また、同じ職種でも業種によって難易度が異なり、営業の場合などは製造業よりも商社の方が取得しやすい傾向にある。

 

 また、「管理者」と「技術者」は大卒である必要はないが、大卒でない場合に要求される日本での勤務期間は大卒者よりも長い。

 

 労働許可書の取得に際しては、「本当にベトナム人ではできない仕事なのか」「取得に必要な書類がそろうのか」という点を事前に検討し、派遣する職員を決める必要がある。

 

<2018年から外国人も社会保険の対象に>

 ベトナムの強制保険のうち、健康保険については現地で契約している従業員に加入の義務がある。加入漏れの場合は7,500万ドン(約37万5,000円、1ドン=約0.005円)を上限として罰金が科される。労働傷病兵社会問題省労働局に指摘を受けて納付した保険料と罰金は損金に算入できないと考えられる。

 

 社会保険に関しては、社会保険法58/2014/QH13によると、2018年1月1日から外国人労働者も対象になるとされているが、加入が義務なのかどうかは当局の担当者でも判断が分かれている。今後、義務化された場合、企業は「被雇用者負担部分を本人と企業のどちらが支払うのか」といったことの検討が迫られると考えられ、義務化に伴うコスト増加と併せて対応する必要がある。

 

 労働法10/2012/QH13に定める残業の上限(1ヵ月で30時間、1年で原則200時間)の延長が認められるケースとして、「緊急で遅延できない作業に対処するその他の場合」という要件があるが、「緊急」の定義は火事などで被災して納期に間に合わないなどの事態が想定されており、実際にこの要件が適用されるケースは極めてまれだ。

 

<VAT還付が受けられない事例に留意>

 次に、個人所得税と付加価値税(VAT)に関する留意点を、会計監査法人HSKベトナムの阿辻健一会長が解説した。

 

 出張者に対する個人所得税の課税の判断は、「ベトナムで給料を得たか」という点がポイントとなる。

 

 例えば、既に現地拠点がある場合は原則として赴任日から課税対象になると考えられるが、「5月に新規拠点設立、6月に出張で訪問、7月に辞令が出て正式赴任」のようなケースでは、拠点設立後にベトナムに入国しているのは業務外と言い切れないため、6月の最初の入国日から申告するのが望ましい。拠点設立前から滞在している場合は、滞在開始時点が課税の起点と判断される可能性が高い。

 

 また仮に、居住者として納税済みの駐在員が年間滞在期間183日未満で帰任することになった場合、居住者から非居住者への変更に伴い、個人所得税が過払いとなれば還付対象となる。

 

 政令100/2016/ND-CPと通達130/2016/TT-BTCにより2016年7月1日から還付制度が変更され、12ヵ月間控除できずに残っていた仕入れVATと、再輸出するための輸入商品の仕入れVATは還付が認められなくなった。前者については、売り上げを増やして回収するなどの方法を取るしかない。また、後者により輸入品を輸出加工企業(EPE)に100%販売している商社がVAT還付を受けられなくなった。これは商社やEPEの事業活動に与える影響が大きいため、ベトナム日本商工会(JBAV)がベトナム政府に対して2016年12月19日に意見書を提出し、還付を認めるよう働き掛けている。

 

 このほかVAT還付が受けられない事例としては、事業活動に関連のない費用、駐在員の家賃を会社が負担した場合など個人の便益に関する費用、契約書の期日どおりに代金が支払われていない費用などがある。

 

(佐々木端士)

(ベトナム)

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