労務関連の制度変更や実務上の留意点を解説-ハノイで最新情報セミナー開催-

(ベトナム)

ハノイ発

2016年06月17日

 ジェトロは6月3日、ベトナム日本商工会(JBAV)ビジネス情報サービス委員会との共催で、労務関連の最新情報を解説するセミナーをハノイ市内で開催した。同分野は最近、頻繁に制度改正が行われ関心が高まっており、日系企業関係者ら約220人が参加した。

<社会保険や労働安全衛生などに注意を>

 当地の日系コンサルタントであるAICベトナムの斉藤雄久代表を講師に招き、直近1年間で改正された労務関連の最新トピックを取り上げ、法令および実務上の注意事項について解説を行った。概要は以下のとおり。

 

 社会保険の算定基礎に関して、20161月から「基本給」と「諸手当」が、20181月からはこれらに加えて「その他の補充額」が含まれることになっている。このうち「諸手当」には、役職手当、責任手当、地域手当、有害・危険・重労働への手当などが、「その他の補充額」には語学手当、資格手当などが含まれる。他方、賞与、交通費、育児手当、皆勤・精勤手当などは保険料算出の対象外となる。また、社会保険法の規定に基づき、2016年以降は妻の出産時に夫も514営業日の産休取得が可能となっている。

 

 労働組合費については2014年以降、職場に労働組合がない場合でも、社会保険として納付するための根拠となる賃金の2%相当を上部労働団体に納付する義務がある。組合がある場合には、これまで組合に65%、上部労働団体に35%を納付していたが、2016年以降は上部労働団体への納付率が毎年1ポイントずつ削減され、2025年には25%になる予定だ。既に北部の一部省市では、同割合に基づく負担が実施されている。組合との団体交渉は、定期的に年1回以上、かつ連続する2回の交渉間隔が原則12ヵ月を超えないこととされており、実務上は毎年行う賃金交渉などの議事録に双方の署名を残しておくといった方策が考えられる。

 

 労働安全衛生関連では、201671日から労働安全衛生法(84/2015/QH13)が施行されることを受け、関連法令が近く公布される予定で、その動向を注視する必要がある。

 

 2015年から雇用契約書への記載内容として、強制保険(社会保険、健康保険、失業保険)の負担比率、納付方法・期間などに関する追記が必要になった。また、代表者が他者に委任して雇用契約を締結することができるが、その場合「解雇」などはできず、罰則の適用は「戒告」に限られる点に注意を要する。就業規則も2015年から、勤務時間・休暇時間、職場の秩序、労働安全衛生、規律違反行為などに関する詳細な記載が求められており、特に規律違反の場合は、具体的な損害額を記載する必要がある(賃金については、2015年10月6記事2016年1月14記事参照)。

 

<労働関連法令は罰則以外のリスクも>

 外国人就労に関する注意事項として、健康保険はベトナムで就労する外国人も加入対象とされるが、一般的には現地で雇用契約を締結している者のみで、本社などからの出向でベトナムに派遣されている外国人は対象外と考えられている。雇用者側の負担額は3%だが、上限が公務員などの一般最低賃金の20倍に当たる2,420万ドン(約113,740円、1ドン=約0.0047円)となっている。

 

 社会保険については、20181月以降、労働許可書や職業資格などの証明書を取得している外国人は加入対象者と記載されているが、強制か否かについての公式な見解は出されていない。なお、雇用者側の負担額は18%で、上限は健康保険と同様になる。

 

 労働許可書については、20164月以降、職位の要件が変更になっている(2016年2月26記事参照)。「管理監督者」は、従前どおりハノイ市内では部門長クラスでも同職位での発給が認められている一方、他地域では代表者にしか認めていないケースもある。「専門家」については、「外国で専門家として認められた者」には、企業が専門家として認めた者が含まれると労働傷病兵社会問題省の通達(No.032014TTBLDTBXH)にはあるが、実際上は企業の発行した証明書が認められたケースはほとんどない。また、「技術者」に関しては技術以外の分野も含まれるようになったが、北部における複数の省市の担当窓口に確認したところ、これに該当するのは調理師などで、事務系の職業は含まれないとの見解だった。さらに、「1年以上学習して」という要件については外部専門機関などでの講習修了を前提とした運用がされている。

 

 労働関連法令では、採用・雇用、賃金、社会保険、労働組合関連など各種罰則が規定されている。これらの罰則自体も企業にとってはマイナスの影響となるが、加えて税務調査時に経費算入が否認されるリスクもある。例えば、賃金テーブルが法令に合致していない場合、それに基づく社会保険料が損金算入できなかったり、年間残業時間数の延長申請なく上限を上回る残業を実施した場合に当該残業手当が経費として認められないことが考えられる。また組合費未納については、労働組合がない場合には就業規則や賃金テーブルの登録前に、地域の上部労働団体と協議することになるが、組合費未納を理由に団体側が協議を拒否して手続きが進まないリスクもあるため、注意が必要だ。

 

<社会保険と労働許可書取得に質問が集中>

 質疑応答では、社会保険と労働許可書取得に関して特に質問が集中した。例えば後者については、「営業職で『技術者』の職位により取得が認められた事例はあるか」という質問に対し、「営業に関する技能の客観的な証明が難しいため、管理者などの職位で取得する方が望ましい」との回答があった。社会保険については外国人加入の強制性に関する明確な見解が、労働許可書については4月から施行された政令の内容を詳細に規定した通達の公布が、それぞれ待たれるところだが、企業実務においては専門家などの協力を得つつ対応していく必要がある。

 

(竹内直生)

(ベトナム)

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