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日本企業自らの日英両政府働き掛けが重要に-「英国のEU離脱と日本企業への影響」セミナーを3都市で開催-

(英国、EU)

欧州ロシアCIS課

2016年08月12日

 ジェトロは7月25~29日、セミナー「英国のEU離脱と日本企業への影響」を名古屋、大阪、東京で計4回開催し、3人の講師が英国のEU離脱〔ブレグジット(Brexit)〕による日本企業への影響について、EUや法律の観点も交えて解説した。日本企業が英国や日本の政府に対して懸念事項を伝えることが重要との指摘もあった。

<日本企業は「4つの自由」への影響を懸念>

 「英国のEU離脱と日本企業への影響」のテーマで講演したジェトロ・ロンドン事務所の坂口利彦所長は、EU離脱が多数を占めた国民投票について、「頭(理性)では『残留』、心(感情)では『離脱』に傾いていた英国民の、感情の部分が勝り、投票結果に表れた」と分析した。EU離脱後の英国については、「日本では、英国の離脱は経済への悪影響や外交・安全保障の問題に焦点を当てて報道されることが多いが、英国内では連合王国維持に向けた懸念が大きい。メイ首相も就任演説で英国連合王国の団結を強調している」と、英国と日本における懸念事項の違いを指摘した。

 

 英国のEU離脱に対する日本企業の懸念事項について、坂口所長はEU単一市場の4つの基本的自由であるモノ、サービス、資本、人(の移動の自由)に大別して説明した。例えば、モノについては対EU貿易への関税賦課、サービスについては金融分野のEUの単一パスポート制度の変更、資本については連結企業組織内部の資金移転に対する税制の変更、人の移動については労働力移動自由の制限などを挙げた。

 

<他のEU加盟国の離脱には懐疑的>

 「英国のEU離脱-EUの視点から-」のテーマで講演した日本機械輸出組合の福永哲郎ブリュッセル事務所長は、英国はEUの大きな成果である単一通貨ユーロや検査なしで国境を越えられるシェンゲン協定などに不参加で、また欧州債務危機や難民対策でもEUと距離を置いた点を指摘し、「経済的な関係を優先する英国と、政治・経済など幅広い分野での統合を目指すEUは、『共同利益』ではしっかりと結び付いてはいなかった」と述べた。

 

 離脱後の英国への影響については、「仮にEUの競争政策などのルールに縛られず、税制などの面で大胆な経済政策ができるようになるとすれば、英国経済にとってある種プラスに働く可能性があるものの、(EU基金から拠出されている)研究開発や農業向けなどの補助金の行方には注視が必要だ」と指摘した。

 

 一方、離脱後のEUへの影響について福永所長は、「英国以外のEU加盟国にとっては、ユーロ導入による不可逆性やEU基金などによる恩恵が大きく、EUから(たとえ抜けたくても)抜けることはできず、他の加盟国に離脱機運が連鎖することは否定的にみている」と分析した。ただ、EUとしての政策運営は難しくなるだろうとし、今後のEUの政策決定への影響を懸念した。これは「英国を含めたEUのリベラル派が結束すれば特定多数決(注)の基準を超えることができたが、英国が離脱することでリベラル派の国々の結束だけでは超えることができず、一部の保守的な国々が結束すれば、欧州委が進める政策を『ブロック』できるようになり、保護主義的な動きを止めることができなくなる可能性もある」ことによる。

 

 また福永所長は、日EU両政府が2016年中の合意を目指して交渉中の日EU経済連携協定(EPA)が欧州側でもEUの「成果」として関心が高まってきている点に言及し、「英国と日本との新たな経済関係を築く上でも、日EUEPAの合意がまずは必要だ」と述べた。

 

<法的な影響については現状把握から>

 「英国のEU離脱の日本企業への法的影響」のテーマで講演したアシャースト法律事務所の岩村浩幸パートナー(弁護士)は、「英国がEUを離脱するとは、簡単にいうと『EU単一市場からの離脱』そして『EU4つの基本的自由の喪失』を意味する」と説明した。日本企業に対しては、「離脱後の英国のEUとの関係は幾つかのモデルが想定されているものの、日本企業が最も不利益を被るWTO協定モデル(2016年6月22日記事参照)を念頭に企業戦略を構築するのも一案だ」と提案した。

 

 また、岩村弁護士は日本企業に対する法的な影響について、現地子会社を持たず日本から英国企業と取引する場合、英国に現地子会社を持つ場合、英国だけでなくEUにも現地子会社を持つ場合などの英国ビジネスへの関わり方の違いや、個別の法分野における関与度合いなど、企業によって置かれている状況が全く異なる点を指摘した上で、「担当者レベルでいいので、各社が英国・欧州における事業活動の現状確認(分析)をすることが、日本企業が最初に取り組むべきことだ。また今後更新が必要な契約については、離脱によるリスクを契約に盛り込むなど必要な変更を検討すべき」などとアドバイスした。

 

<企業自ら政府に要望することが重要>

 英国(もしくはEU)でビジネスをする日本企業の懸念事項については、坂口所長、福永所長、岩村弁護士の3人とも、離脱交渉は英国側からの通知後2年の期間があることを前提に、「日本政府やジェトロは英国政府に対して要望を提出するが、今後、(離脱により不利益を被りかねない)日本企業自らも直接英国政府や日本政府に対して働き掛けていくことが必要だ」と、各社の積極的な取り組みの重要性を強調した。

 

 なお、729日のセミナーで冒頭あいさつをしたジュリア・ロングボトム駐日英国臨時代理大使は、「英国は今後も変わらず日本といい関係を構築していきたい。そのためにも英国政府は日本企業の意見を聞くことが重要だと感じている。是非われわれに皆さまの要望事項を伝えてほしい」とコメントした。

 

 同セミナーは名古屋(725日)、大阪(726日)、東京(728日、29日)の3都市で計4回開催し、合計740人が参加した。質疑応答では、英国のEU以外の国との自由貿易協定(FTA)交渉の可能性や、金融分野におけるEUの単一パスポート制度の今後などに関する質問が出た。

 

 なお、ジェトロは英国のEU離脱に関する情報や世界各国への影響などについて、ウェブサイトで随時掲載している。

 

(注)EUの政策決定機関であるEU理事会(閣僚理事会)の最も一般的な決定方法で、「加盟国数で55%以上」かつ「人口で65%以上」という多数決方法。

 

(古川祐、深谷薫)

(英国、EU)

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