AJCEPの「連続する原産地証明書」発給手続きが改善
(タイ、ASEAN、日本)
バンコク発
2016年08月25日
日ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)に基づくタイでの「連続する原産地証明書」の発給手続きが改善された。これまで締約国からの貨物をタイで在庫分割して他の締約国へ輸出する場合、分割貨物に対する証明書の発給は一括申請の場合に限り認められていた。ユーザー企業が効率的な在庫管理を行う上で障害となっていたが、改善の結果、申請が複数回に及ぶ場合でも、その都度、発給されることとなった。
<タイ経由の貨物にはこれまで厳格なルールを適用>
連続する原産地証明書(注1)のタイでの発給手続きはこれまで、発給当局の商務省外国貿易局(DFT)が「1回の申請のみ有効」とのルールを採用していた。つまり日本からの貨物がタイの保税区内で分割され、分割後の貨物に対し別々に複数枚の連続する原産地証明書の発給申請を行うことはできず、仕向け地別の貨物量が全て確定した時点で一括申請する必要があった(2015年10月23日記事参照)。
これは、DFTが「複数の連続する原産地証明書の申請に際し、原輸出国が発給した原産地証明書の『原本』の提出が必要」との方針に基づき手続きを運用していたからだ。すなわち、原本は1通なので1回の申請のみを認めるという考え方だ。他方、シンガポールやマレーシアでは申請に際しての根拠資料として、最初の輸出国の原産地証明書の写しや提示(提出不要)も認められており、複数回の申請・発給が可能となっている。
<ジェトロの継続的な申し入れにより改善>
ジェトロ・バンコク事務所は、タイ独自の「連続する原産地証明書」の発給手続きはタイを拠点に効率的な在庫管理を行う企業の障害となっているとして、DFTと継続的に協議を行い、対応の改善を求めていた。
こうした経緯もあり、DFTは8月4日、ジェトロ・バンコク事務所に対し、上述したように発給手続きを改善し、新たな運用を開始したと報告した。DFTのAJCEP担当官によると、新たなルールの下、タイで「連続する原産地証明書」の申請を行う輸出者は、最初の申請時に原輸出国の原産地証明書(原本)を提示する必要があるものの、DFTが確認した後、申請者に返却されるため、申請者は次回以降の申請時にも原本を提示できる。また、2度目以降の申請ではコピーの提出も認められることとなった。
この手続き変更に関してDFTによる公式な通達は出されておらず、今後も予定されていない(注2)。なお、今回、改善が報告されたのは、あくまでAJCEPの連続する原産地証明書に対するものであり、ASEAN中国自由貿易地域(ACFTA)では、分割貨物に対する原産地規則の運用手続きには依然、厳格なルールが適用される可能性が高い(2015年10月9日記事参照)。
(注1)タイでは、AJCEPの協定付属書4「運用上の証明手続き」で、マレーシアやシンガポールなど他のASEAN加盟国に比べて証明書発給の手続きが厳格な事例がたびたび報告されている。今回、手続きの改善が行われたのは、同付属書の第3規則・第4項で規定されている「連続する原産地証明書」(Back to Back Certificate of Origin)の制度に関するもの。
(注2)ユーザー企業側で、新たなルールの適用が受けられない、あるいは不明な点がある場合は、DFTの特恵貿易部(Bureau of Trade Preference)に直接照会できる(TEL:+66-2-5475098)。
(伊藤博敏)
(タイ、ASEAN、日本)
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