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分割貨物に対する原産地規則の厳しい運用が問題に-ACFTAの移動証明書発給のタイでの運用実態-

(ASEAN、中国、タイ)

バンコク事務所

2015年10月09日

 ASEAN中国自由貿易地域(ACFTA)を活用し、締約国からの貨物をタイで中継して、在庫分割して他の締約国へ輸出する物流において、タイ政府による原産地規則の運用が厳しく、ユーザー企業の柔軟な在庫オペレーションに対応できないことが問題視されている。政府は企業からの相談によって問題の所在を認識し、政府間協議を進めているものの、運用改善には時間がかかるものとみられる。

<狭く解釈する独自のルール>

 ACFTAにおける移動証明書(Movement Certificate)とは、いわゆる連続する原産地証明書(COCertificate of Origin)で、通常はバックトゥバック原産地証明書(Back to Back CO)と呼ばれる。締約国Aから輸出された原産品が締約国Bを経由し、積み替えなどを行ったうえで、最終的に他の締約国であるCに輸入される場合に、経由国に当たるBで貨物に対し何も加工をせず、Aで得た原産資格が変更されない場合に、Bの発給機関から発給される証明書のことを指す。Cでの輸入に際しては、Bで発給された同証明書に基づき、FTA税率が適用される。なお、Bで移動証明書の発給を受けるには、Aで発給されたオリジナルのCOが必要となる。

 

 現在、問題となっているのが、タイが経由国となり、タイで移動証明書を発給する際のルールだ。他の締約国から届いた貨物をタイで積み替え、分割して複数の締約国に分けて輸出する場合に、タイ商務省および税関が「タイで発給する複数の移動証明書は、最初の輸出国で発給されたオリジナルの原産地証明書1通につき1通しか発給しない」という運用だ。

 

 例えば、ある企業が、中国で生産された100の貨物を1枚の原産地証明書(フォームE)で輸入し、タイでこれを3つに分割し、20をマレーシア、30をフィリピン、50をインドネシアに輸出するオペレーションを検討している場合、仕向け地別に3枚の移動証明書が必要となる(図参照)。しかし、タイ政府の移動証明書の発給条件は「オリジナルのフォームEに対して1通のみ発給」となっている。そのため、マレーシア向けの貨物に移動証明書が発給された場合、フィリピン向け、インドネシア向けの貨物に対して移動証明書は発給できないことになる。

 タイの商務省外国貿易局(DFT)によると、分割貨物に対する複数の移動証明書の発給を認めない根拠として、ACFTAの原産地規則に関する運用上の証明手続き〔Operational Certificate ProceduresOCPfor the Rules of Origin〕の解釈がある。外国貿易局の担当官は、同OCPの規定の第12項(Rule12)の中に、移動証明書の発給に必要となる提出資料の1つとして、「最初の輸出国が発給した有効期限内のオリジナルの原産地証明書フォームE」が指定されていること、を上記運用の理由に挙げる。

 

 つまり、上図の取引例なら、最初のマレーシア向けの貨物に使用される移動証明書の申請に際して、オリジナルの原産地証明書の原本を提出しなければならない。フィリピンやインドネシア向けの貨物に対する移動証明書は別件の申請と解釈され、同申請に際して求められるオリジナルの原産地証明書が提出できない事態が生じるためだ。さらに、オリジナルの原産地証明書を基に、複数の仕向け地別の貨物を「一括」で申請した場合でも「原則として1ヵ所の最終仕向け地に対してのみ、移動証明書を発給する」という運用が行われており、「原本の提出」という規定を、極めて狭い解釈で運用しているのが実態とみられる。

 

<シンガポールやマレーシアは複数の発給が可能>

 タイ政府の独自判断によるルールの運用は、物流拠点としてのタイの競争力を相対的に低下させる懸念がある。

 

 中国から輸入した製品をタイで分割して周辺国に輸出するビジネスを検討する日系企業は「通常のビジネスオペレーションを考えると、移動証明書(もしくはバックトゥバックCO)は中継国で在庫分割をする前提で活用する制度であり、分割した貨物に移動証明書を取得できないとタイを中継拠点にする上での大きなデメリットになる」と指摘する。

 

 シンガポールやマレーシアにおいては、ACFTAの移動証明書の発給において、タイのような厳格な運用はされておらず、最初の輸出国から発給される1枚のフォームEに基づき、分割された複数の仕向け地の貨物に対する複数の移動証明書の発給が可能だ(注)。また、移動証明書の申請に際しての根拠資料としては、最初の輸出国のフォームEの写しやスキャンコピーの提出または提示のみ(提出不要)などもできる柔軟な運用が認められている。

 

ATIGAでは異なる運用>

 タイ政府によると、ASEAN加盟国間で締結されているASEAN物品貿易協定(ATIGA)のバックトゥバックCOの発給については、1枚のオリジナルのCOを基に、複数のバックトゥバックCOの発給が認められている。これは、同協定OCPにおいては、中継国でのバックトゥバックCOの発給に際し、最初の輸出国で発給されたCOに関して、「原本もしくは写し」の提出を求める旨が明示されていることが背景にある。一方、ACFTAには「写し」を認める記載がないことから、これが上述のような運用の違いを生じさせていると考えられる。

 

 なお、日本とASAENが締結する日ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)においては、バックトゥバックCOの発給条件として、ACFTAと同様、「写し」を認める旨が明示されていないことから、ACFTAと同様の厳しい解釈によって運用されるリスクがある。

 

 ジェトロ・バンコク事務所では現在、AJCEPを含めたその他のASEAN1 FTAについても、タイを中継地とする場合のバックトゥバックCOの発給ルールについて運用実態の確認を急ぐとともに、発給に関する独自ルールの運用改善を求めている。外国貿易局では「企業からの直接相談などによって問題を認識しており、現在、他の締約国とともに運用改善について協議している」としているが、運用を変えるにはACFTAOCPの改定が必要との立場を崩しておらず、手続きには時間がかかるものとみられる。

 

(注)申請される複数の移動証明書の貨物の合計が、最初の輸出国からの貨物量を超えないことが条件となる。

 

(伊藤博敏)

(ASEAN、中国、タイ)

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