AJCEPでも分割貨物に対する原産地規則を厳しく運用

(タイ、ASEAN)

バンコク事務所

2015年10月23日

 日ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)を活用し、締約国からの貨物をタイで在庫分割して他の締約国へ輸出する場合、分割貨物に対する複数枚の原産地証明書の発給は、一括申請の場合に限り認められる。協定付属書の文言がマレーシアやシンガポールとは異なる解釈をされ、より厳格に運用されている。ユーザー企業がタイを拠点に効率的な在庫管理を行う障害となっており、改善が求められている。

<締約国で異なる証明書の発給条件>

 AJCEPでは、協定付属書4-運用上の証明手続き(Annex4Operational Certification Procedures)の第3規則第4項において、バックトゥバック原産地証明書〔Back to Back COCertificate of Origin)〕と呼ばれる「連続する原産地証明書」制度を導入している。これは、締約国Aから輸出された原産品が、締約国Bで積み替えなどを行った上で、最終的に他の締約国であるCに輸入される場合に、経由国に当たるBで、貨物に何も加工をせず、Aで得た原産資格が変更されない場合に、Bから発給される新たな証明書のことを指す。

 

 Cでの輸入に際しては、Bで発給された「連続する原産地証明書」に基づき、AJCEPの定める特恵税率が適用される。なお、Bで同証明書の発給を受けるには、Aで発給された最初の原産地証明書(Original CO)が必要となる。なお書式上は、AJCEPの指定する特定原産地証明書フォーム(Form AJ)の第13欄の「Back to Back CO」の項目にチェックが入っていれば、経由国で発給された「連続する原産地証明書」と見なされる。

 

 原則として、「連続する原産地証明書」を発給する条件や手続きは締約国によって異なっている。例えば、シンガポールを経由する貨物の場合、上述の「貨物に何も加工をせず、Aで得た原産資格が変更されない場合」という発給条件は、いったんシンガポール国内に通関された貨物に対しても、シンガポール税関がそれを認めれば「連続する原産地証明書」が発給される。他方、タイを含む他の締約国では、基本的に最初の輸出国からの貨物は、通関前の保税区域に留め置かれ、そこで積み替えや分割が行われることが発給条件となる。

 

<複数枚の証明書でも一括して申請>

 それでは、日本から輸出された100の貨物を、タイが経由国となり、保税区内で分割の上、30の貨物をタイ国内向けに輸入通関、その他の貨物をカンボジア(20)、ベトナム(20)、インドネシア(30)向けに、それぞれ「連続する原産地証明書」を取得して輸出する場合の手続きを確認したい(図参照)。

 タイ商務省・外国貿易局(DFT)のAJCEP担当官によると、「AJCEPの場合、最初の原産地証明書に基づき、複数の『連続する原産地証明書』を仕向け地別に発給することは可能。ただし『連続する原産地証明書』が複数枚であっても一括して申請される必要がある」としている。そのため、タイで積み替え・分割をし、「連続する原産地証明書」を取得して最終仕向け地に輸出される貨物に関しては、「全ての最終仕向け地からのオーダーが出そろってから、一括して申請する手続きが求められる」という。

 

 つまり図のような取引では、カンボジア、ベトナム、インドネシア向けの貨物に対して別々に発給申請を行うことはできず、それぞれの仕向け地別の貨物量が全て確定した時点で、3ヵ所向けの貨物に対する3枚の「連続する原産地証明書」を一括申請する必要がある。

 

 こうした運用実態は、発給当局であるDFTの解釈として、「3通の『連続する原産地証明書』の申請に際しては、日本からの輸入貨物に付随する最初の原産地証明書の『原本』の提出が必要となる」として、それに基づく運用を行っていることが背景にある。すなわち、別々に申請した場合、例えばカンボジア向け貨物の申請に際して最初の原産地証明書の原本を提出してしまうと、ベトナムやインドネシア向けの貨物の申請においては条件が満たせない事態が生じることになる。

 

 なお、その他のASEAN1自由貿易協定(FTA)においては、ASEAN中国自由貿易地域(ACFTA)を活用した同様の物流の場合、最初の原産地証明書1通に対して、「連続する原産地証明書」(ACFTAでは移動証明書)が1通に限られるという運用が行われており、一部の企業の間で問題視されている実態がある(2015年10月9日記事参照)

 

<「Original」の解釈の相違が背景に>

 AJCEP協定付属書4の第3規則第4項では、最初の貨物の輸入国(図ではタイ)は、「連続する原産地証明書」の発給に際し、「有効な最初の原産地証明書を提示して申請を行う」と規定されている。英文版付属書の該当部分は、次のように記載されている。

 

 「The importing party may issue a back-to-back CO as a new CO for the originating good, if a request is made by the exporter in the importing Party or its authorized agent with presentation of the valid original CO.」〔当該輸入締約国における輸出者又は権限を与えられたその代理人が有効な最初の原産地証明書を提示して申請を行うときは、当該輸入締約国の権限のある政府当局又はその指定団体は、当該原産品のための新たな原産地証明書として、連続する原産地証明書を発給することができる(外務省仮訳)〕

 

 ここで問題となるのが、上記英文の最後にある「the valid original CO」の解釈だ。タイのDFTが上記のような運用を行う根拠は「『Original』との記載がある以上、最初の原産地証明書は原本が提出されなければならない」という解釈が背景にある(注)。しかし日本語の協定文では「原本」の記載はなく、「Original」は「最初の」と表現されており、それが原本のかたちで経由国の発給当局に提出される必要があるか否かは言及されていない。

 

 なお、マレーシアやシンガポールにおいては、ACFTAの移動証明書の発給手続きと同様、最初の輸出国から発給される1枚の原産地証明書(フォームAJ)に基づき、同証明書の有効期限(1年間)の範囲内、また分割後の貨物の総量が最初の貨物の輸出量を超えない範囲において、複数回の「連続する原産地証明書」の申請・発給が可能となっている。また、申請に際しては、最初の輸出国の原産地証明書の写しやコピーの提出もしくは提示のみで可能となっている。

 

 DFT担当者は「AJCEPを活用して、日本からの貨物をタイで分割して、ASEAN域内の周辺国に輸出したいという相談は過去に23件受けたことがある。その際には、一括申請を求める旨の回答をしている」という。他方、ユーザー企業は「タイでの在庫管理を考えた場合、周辺国からのオーダーを全て同じタイミングで受けて、一括申請するような商流は極めて非現実的」(在バンコク日系電機メーカー)という。

 

 運用の改善が求められるが、DFTはマレーシアなどと同様の運用を行うためには「協定付属書4の当該部分の記載が修正され、申請の際の提出資料として、最初の原産地証明書の原本に加え、コピーも可能であることが追記される必要がある」としている。

 

(注)1015日、ジェトロ・バンコク事務所がDFTの担当官に確認。

 

(伊藤博敏)

(タイ、ASEAN)

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